2025年8月6日、広島市の平和記念公園では、原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)が厳かに執り行われました。被爆80年目となる今年の式典には、過去最多となる120の国と地域の代表が参列し、核兵器廃絶への国際社会の強い願いが示されました。式典では、広島市の松井一実市長が恒例の平和宣言で核なき世界を改めて訴え、石破茂首相、そして広島県の湯崎英彦知事もそれぞれあいさつを行いました。
式典終了後、「広島原爆の日」や「平和祈念式典」といった関連ワードが次々とX(旧Twitter)のトレンドワード入りする中、特に「広島県知事」のワードが上位に浮上し、注目を集めました。湯崎知事のスピーチは、核抑止論を「フィクション」と断じ、「自信過剰な指導者」らによってその抑止が破られる危険性を強く警告する内容であったため、「すごく切り込んでて素晴らしかった」「広島県知事よく言った」「広島県知事のスピーチがとても刺さった」など、称賛の声が多数寄せられました。このスピーチは、平和への切実なメッセージとして、多くの人々の心に響いたようです。
平和記念式典の開催と国内外の反応
被爆80年という節目の年に開催された広島平和記念式典は、例年以上に多くの注目を集めました。世界中から過去最多の国と地域の代表が集い、広島から発信される平和へのメッセージに耳を傾けました。松井一実市長は平和宣言の中で、核兵器の非人道性を強調し、国際社会全体での核廃絶に向けた具体的な行動を強く促しました。日本の最高指導者である石破茂首相もまた、核兵器のない世界の実現に向けた日本の役割について言及し、平和への誓いを新たにしました。
特に話題となったのは、広島県の湯崎英彦知事によるあいさつでした。その内容は、従来の核抑止論に対する挑戦的な視点を含んでおり、インターネット上でも大きな反響を呼びました。X(旧Twitter)では、「広島県知事」がトレンドワードの上位にランクインし、多くのユーザーが湯崎知事のスピーチ内容について活発な議論を交わしました。それは、単なる情報伝達に留まらず、平和と安全保障のあり方について、深く考えるきっかけを与えたと言えるでしょう。
湯崎知事スピーチの核心:核抑止は「フィクション」
湯崎英彦知事のあいさつは、原爆犠牲者の御霊への深い哀悼と、被爆者および御遺族への心からの見舞いの言葉から始まりました。彼は、かつて「草木も生えぬ」と言われた広島の街が復興し、世界からの観光客で賑わう平和と繁栄を享受している一方で、国際秩序が剥き出しの暴力が支配する世界へと変貌し、この繁栄が「いかに脆弱なものであるか」を痛感していると述べました。
このような時代背景の中で、核抑止の重要性を声高に叫ぶ人々がいることに言及しつつ、湯崎知事はその考えに疑問を呈しました。彼は、戦争を回避するための抑止概念の必要性を認めつつも、歴史が示すように、ペロポネソス戦争以来、力の均衡による抑止が「繰り返し破られてきた」事実を指摘しました。その理由として、抑止が「あくまで頭の中で構成された概念又は心理、つまりフィクション」であり、「万有引力の法則のような、普遍の物理的真理ではないから」だと明言しました。
広島平和記念式典でスピーチを行う湯崎英彦知事の様子。核兵器廃絶と核抑止論への疑問を訴える
湯崎知事は、抑止が破られる具体的な要因として、「自信過剰な指導者の出現、突出したエゴ、高揚した民衆の圧力」あるいは「誤解や錯誤」を挙げました。さらに、日本自身が力の均衡で圧倒的に不利と知りながら太平洋戦争の端緒を切った歴史を例に挙げ、人間が常に核抑止論が前提とする「合理的判断」を行うとは限らないことを強調しました。彼は、核抑止が80年間無事に保たれてきたわけではなく、核兵器使用手続きの意図的な逸脱や核ミサイル発射拒否などにより、何度も「破綻寸前だった事例も歴史に記録されている」と警鐘を鳴らしました。
核戦争の脅威と新たな安全保障への提言
湯崎知事は、「国破れて山河あり」という言葉を引用し、かつては国が荒廃しても再建の礎が残されたことに触れつつ、もし核による抑止がいつか破られ、核戦争になれば「人類も地球も再生不能な惨禍に見舞われる」と強い危機感を表明しました。「国守りて山河なし」という逆説的な状況、すなわち「概念としての国家は守るが、国土も国民も復興不能な結末が有りうる安全保障に、どんな意味があるのでしょう」と問いかけ、核兵器に依存する安全保障の虚無性を指摘しました。
彼は、抑止力とは単に武力の均衡を指すものではなく、「ソフトパワーや外交を含む広い概念であるはずだ」と主張しました。そして、人類が存続可能となるよう、「抑止力から核という要素を取り除かなければならない」と力説しました。年間14兆円超が核抑止の維持に投入されているとされる現状に対し、その十分の一でも「核のない新たな安全保障のあり方を構築するために、頭脳と資源を集中することこそが、今我々が力を入れるべきことだ」と具体的な提言を行いました。
核兵器廃絶は「現実的・具体的目標」
湯崎知事は、核兵器廃絶は決して「遠くに見上げる北極星」のような非現実的な目標ではないと述べました。彼は、被爆で崩壊した瓦礫に挟まれ身動きの取れなくなった被爆者が、暗闇の中、一筋の光に向かって這い進み、生を掴んだという歴史的事実を例に挙げ、核兵器廃絶もまた「実現しなければ死も意味し得る、現実的・具体的目標」であると位置づけました。
最後に、彼は「諦めるな。押し続けろ。進み続けろ。光が見えるだろう。そこに向かって這っていけ。」と、被爆者の声がけを引用し、力強いメッセージを投げかけました。そして、「這い出せず、あるいは苦痛の中で命を奪われた数多くの原爆犠牲者の無念を晴らすためにも、我々も決して諦めず、粘り強く、核兵器廃絶という光に向けて這い進み、人類の、地球の生と安全を勝ち取ろうではありませんか」と、未来への強い決意を表明しました。広島県として、核兵器廃絶への歩みを決して止めることのないことを誓い、平和へのメッセージと締めくくりました。
湯崎知事のこのスピーチは、核抑止論への根源的な問いかけと、核兵器廃絶に向けた具体的な行動の必要性を明確に提示し、国際社会に対し新たな視点と深い考察を促すものでした。