世界第3位の自動車市場であるインドを舞台に、日本の大手自動車メーカーと韓国の現代自動車グループが熾烈な競争を繰り広げています。特に、米国が日本、韓国、EU製の自動車に対して15%の追加関税を課すと発表したことで、各社は成長著しい新興市場での主導権争いを加速させています。インド市場の動向は、今後のグローバル自動車産業戦略において極めて重要な要素となっています。
現代・起亜グループの戦略と市場躍進
現代自動車グループはインド市場で着実に足場を固めています。2025年上半期には、現代自動車が28万5809台(前年比7.7%減)、起亜が14万2139台(同12.7%増)を販売し、グループ全体で約42万8000台を記録しました。市場シェアは現代が約13%で3位、起亜が6%で6位につけています。
現代自動車は1996年のインド進出以来、現地化戦略で急速に成長しました。かつて市場の8割を占めた日本・スズキの子会社マルチ・スズキのシェアが現在約40%に落ち込む中、現代は独自の地位を確立しています。2015年に発売された小型SUV「クレタ」は累計126万台以上を売り上げ、「国民SUV」と称されるほどの人気を博しました。2025年初頭には、同社のインド初の現地生産EVとなる「クレタEV」の投入も予定されています。起亜も2019年の進出以降順調に成長を続け、今年上半期には新型SUV「シロス(Seltos派生モデル)」が2万4000台以上を販売するなど好調です。
現代自動車グループは、チェンナイの2工場に加え、GMから買収したプネ(タレガオン)工場を今下半期に稼働させる計画です。これにより、起亜の工場と合わせ、グループ全体のインドにおける年間生産能力は150万台規模に拡大し、さらなる市場攻勢の基盤を築きます。
インド市場で販売好調な現代自動車のSUVラインアップ。ベストセラー「クレタ」も含む。
トヨタの反攻とスズキとの協業
一方、トヨタ自動車もインド市場での攻勢を強めています。2024年のインド市場シェアは約7%で5位ですが、長年のパートナーであるスズキとの提携を通じて小型車の供給や技術協力を行うことで、巻き返しを図っています。現在稼働中の2工場に加え、来年には第3工場が稼働する予定であり、さらにマハラシュトラ州政府との協定に基づき第4工場の建設も計画中です。これにより、トヨタは最大年産50万台規模の生産体制を整え、インドでの存在感を高める戦略です。
インド市場の成長潜在力とEVシフトの加速
自動車業界がインドに注目する背景には、その巨大な成長余地があります。人口14億人を抱えながらも、自動車普及率はわずか8.5%にとどまっており、中間層の拡大と力強い経済成長が、今後の市場急拡大を予感させています。
さらに、2025年から施行される米国の自動車関税強化は、日韓メーカーのインド市場へのシフトを加速させる大きな要因となっています。インド政府は2030年までに電気自動車(EV)の販売比率を30%に引き上げる方針を掲げており、この分野は急速な成長を見せています。2023年のEV販売は11万4000台を記録し、年平均78%という驚異的な成長率を達成しています。2040年にはインドでのEV販売が550万台に達するとの見通しもあり、韓国の大手国策銀行である韓国産業銀行もこの分野の将来性を高く評価しています。テスラが2025年後半にインドで車両引き渡しを開始するというニュースも、市場のEVに対する期待感の高さを示しています。
まとめ
インド自動車市場は、巨大な人口と経済成長、そして政府によるEVシフト推進策を背景に、世界の主要自動車メーカーにとって最も魅力的なフロンティアの一つとなっています。現代・起亜グループとトヨタ自動車をはじめとする日韓メーカーの熾烈な競争は、単なる販売台数争いに留まらず、各社のグローバル戦略、特にEV分野での競争力を左右する重要な戦場として、今後もその動向が注目されます。米国による新たな関税措置が、この競争にさらなる拍車をかけることは必至であり、インド市場の戦略的価値は一層高まるでしょう。
参考文献:
- KOREA WAVE / AFPBB News
- Yahoo!ニュース記事