「また値上がりした」──ガソリンスタンドに立ち寄るたびにそう感じているドライバーは少なくないでしょう。特に地方では車が不可欠な移動手段であり、ガソリン価格の高騰は家計に深刻な影響を及ぼしています。ガソリン代には様々な「税金」が含まれていますが、その複雑な内訳をご存じでしょうか。本記事では、もし「ガソリン税」がなかったら、ガソリン価格や私たちの家計がどう変化するかを詳細に解説します。
ガソリン価格を構成する「税金」の複雑な内訳
私たちがガソリンスタンドで支払う1リットルあたりのガソリン価格には、複数の税金が含まれています。その構造は複雑で、多くの人が詳細を知らないまま「ガソリン代」として納税しているのが実情です。ガソリンにかかる主な税金の種類と内訳は以下の通りです。
主要な税金の種類とその役割
- 揮発油税(国税):国に納める税金で、ガソリン税の大半を占めます。
- 地方揮発油税(地方税):地方自治体に納められる税金です。
- 石油石炭税・温暖化対策税(国税):原油や石油製品の輸入・生産に対して課され、地球温暖化対策に充てられます。
- 消費税(国税・地方税):ガソリン代全体に10%の税率が適用されます。
特に注目されるのは「揮発油税」と「地方揮発油税」を合わせた、いわゆる「ガソリン税」です。現在、これらには「暫定税率」が適用されており、揮発油税が1リットルあたり48.6円、地方揮発油税が5.2円で、合計53.8円がガソリン税として徴収されています。これに石油石炭税(2.04円)や温暖化対策税(0.76円)、そして消費税が加わることで、ガソリン小売価格のおよそ4割近くが様々な「税金」によって占められる計算になります。
「二重課税」論争の真相と政府見解
ガソリンにかかる税金で頻繁に議論されるのが「ガソリンは『二重課税』ではないのか?」という点です。
なぜ「二重課税」と指摘されるのか
この指摘は、ガソリン税が課された後の価格に、さらに消費税10%が上乗せされる構造に起因します。つまり、ガソリン税そのものにも消費税が課されている状態であるため、「税金に税金がかけられている」という形で「二重課税」と見なされることがあります。
政府の公式見解とその評価
これに対し、政府は「ガソリン税は石油メーカーなどが納税し、その負担が商品価格に上乗せされており、消費税の課税対象となる『課税資産の譲渡等の対価の額』に含まれるため、形式的には二重課税ではない」と説明しています。しかし、この解釈については依然として議論の余地があると指摘されています。
もし「ガソリン税」がなかったら?家計への影響を試算
では、もしガソリン税(揮発油税および地方揮発油税)がなかったとしたら、私たちのガソリン代は一体いくらになるのでしょうか。具体的な試算で家計への影響を見てみましょう。
具体的な価格差の算出と月々の負担軽減額
仮にガソリン小売価格が1リットルあたり170円だとします。この価格には、ガソリン税53.8円が含まれています。また、石油石炭税2.04円と温暖化対策税0.76円も含まれており、これらの合計は56.6円です。
消費税を除いたガソリンの本体価格は、170円 ÷ 1.1 ≒ 154.55円です。
この154.55円から、ガソリン税53.8円と他の税金2.04円、0.76円を引くと、ガソリン本体の原価は約97.95円となります。
もしガソリン税53.8円がゼロになった場合、ガソリンの本体価格は97.95円 + 2.04円 + 0.76円 = 100.75円となります(他の税金は残る)。この価格に消費税10%が課されると、100.75円 × 1.1 ≒ 110.83円となります。
つまり、ガソリン税がなければ、1リットルあたり約110.83円で購入できることになります。これは、現在の170円から59.17円の価格差です。
月100リットル給油するケースで試算すると、月間の負担は100リットル × 59.17円/リットル = 5,917円も軽減されることになります。年間では約7万円の節約となり、家計にとって大きな恩恵があるでしょう。
ガソリンスタンドで給油する車の様子。ガソリン税を含まない価格シミュレーションと家計への影響を示す。
ガソリン税の「特定財源」としての重要性
ガソリン税は、単に徴収されるだけでなく、その使い道が明確に定められた「特定財源」として重要な役割を担っています。
道路整備と社会インフラへの貢献
ガソリン税は主に道路の整備や維持管理に充てられています。高速道路や一般道の建設・補修、交通安全対策などが、この税金によって支えられています。自動車を利用する人々から徴収し、その便益を享受するためのインフラに還元するという仕組みです。
廃止がもたらす財政・経済への影響
ガソリン税の年間税収額は、令和7年度にはおよそ2兆2000億円にも及びます。もしこの多額の税収が一気に廃止されるとなると、国の財政や経済に極めて大きな影響が起きることも予想されます。道路インフラの維持管理費用の確保など、新たな財源の議論が不可避となるでしょう。
ガソリン価格に含まれる税金は、複雑な構造と「二重課税」指摘がある一方で、道路整備などの社会インフラを支える重要な「特定財源」です。もしガソリン税がなくなれば家計は楽になりますが、国家財政や公共サービスには課題が生じます。この仕組みを理解することは、家計への影響だけでなく、日本の財政と社会基盤を考える上で不可欠な視点を提供します。
Source:
Yahoo!ニュース