石破茂氏の「誠実さと謙虚さ」に見る政治家の真価:2009年自民党大敗から学ぶ一貫した姿勢

筆者は、石破茂氏の政策すべてに賛同しているわけではない。しかし、先の参院選での自民党敗北を受け、激化する「石破おろし」に対しては、違和感と不快感を覚えずにはいられない。市民として明確な判断を下しきれずモヤモヤする中で、昨年末に刊行された石破氏の著書『私はこう考える』(新潮新書、2024年12月刊)を手に取った。本書は、石破氏が過去10年間に新潮新書から発表した4冊の著作から、これからの日本を考える上で重要と彼自身が選んだ論考をまとめたものである。この一冊を読み進める中で、筆者は石破氏の基本的な考え方や主張に、ブレない一貫性があることを強く感じた。

石破氏の著作から読み解く政治哲学:2009年衆院選の教訓

本書の中で特に印象的だったのは、2018年に刊行された『政策至上主義』に収録されている「誠実さ、謙虚さ、正直さを忘れてはならない」という一節だ。この記述は、今回の参院選における自民党の敗退に通じる示唆を含んでいる。石破氏はここで、自民党が野党に転落した2009年の衆院選について、「衝撃は非常に大きく、忘れられないものだった」と振り返っている。当時の経験が、彼自身の政治姿勢の根幹を形成していることがうかがえる。

石破茂氏が国会で心境を語る様子 (2025年8月1日)石破茂氏が国会で心境を語る様子 (2025年8月1日)

2009年自民党大敗の衝撃と検証の重要性

2009年の衆院選では、自民党の議席は300から119へと、約3分の1にまで激減した。世論調査で敗北は予測されていたものの、その結果は党内に大きな衝撃を与えたという。石破氏は、当時を振り返り、野党転落後にまず取り組むべきは「なぜ自民党は敗れたのか。野党にならなければならなかったのか。このことを徹底して検証すること」であったと強調している。政権復帰が遠い未来であったとしても、その間に何をすべきで、何をすべきではないかを考えることの重要性を説く。さらに、彼は「自民党が分裂するような事態は絶対に避けなければいけない」と強く感じていたことを記している。

現在の石破氏は、参院選大敗後も「日米関税合意の確実な実行」などを理由に続投に意欲を示し、非難の声を受けている。しかし、彼の著書における2009年の記述を確認する限り、批判に揺らがない現在の姿勢は、当時の彼が抱いた「一貫した信念」に基づくものではないかと筆者は感じた。

政策ではなく「党のあり方」が問われた大敗

では、なぜ2009年に自民党は野党に転落し、有権者から嫌われたのか。石破氏の分析は興味深い。「決して自民党の政策が間違っていたのではなかったように思います」と彼は述べる。それよりも、有権者の間に「自民党だけは嫌だ」という感情が蔓延し、党の「あり方」に対する厳しい見方が大きかったのではないかと指摘している。これは、政党が政策だけでなく、その姿勢や態度が有権者の支持を大きく左右するという、重要な示唆を与えている。

2009年衆院選大敗を報じる当時のメディアと自民党の反応2009年衆院選大敗を報じる当時のメディアと自民党の反応

政治家の「誠実さ」が問われる時代

石破茂氏の著作から読み解けるのは、政治家としての「誠実さ、謙虚さ、正直さ」を追求する一貫した姿勢と、過去の選挙大敗を「政策」だけでなく「党のあり方」にまで深く掘り下げて分析する洞察力である。彼が2009年の自民党大敗を「忘れられないもの」とし、そこから得た教訓を現在の政治姿勢にも反映させているとすれば、彼の続投意欲の背景には、表面的な批判を超えた政治家としての信念と責任感があるのかもしれない。この分析は、日本の政治が直面する課題を深く理解する上で、重要な示唆を提供するだろう。


参考文献: