世界最大の金購入国である中国が、海外で違法な金鉱採掘を行っているとの衝撃的な報道がなされました。ワシントン・ポスト紙(WP)は、中国の「鉱山マフィア」が世界的な金需要を煽り、アジア、アフリカ、南米大陸などで違法な採掘活動を展開していると報じています。この問題は、単なる違法行為に留まらず、環境破壊、地元住民の生活への深刻な影響、さらには米中間の経済覇権争いという国際的な文脈の中で捉えられています。
世界各地で横行する中国の違法金採掘の実態
最も深刻な被害を受けている国の一つがインドネシアです。昨年8月、インドネシアでサッカー場184個分という史上最大規模の違法金鉱が発見されました。この鉱山では、当局の許可なく毎月約550万ドル(約8億円)相当の金が採掘されていたとされます。スマトラ島のラントゥン村では、これまで手作業で金を採掘してきた地元の鉱夫たちが、中国の鉱山組織によって生活の場を脅かされています。彼らは掘削機や破砕機などの重機を持ち込み、地元鉱夫が数カ月から数年かけて採掘する量をわずか一日で採掘。地元住民は彼らを「鉱山マフィア」と呼んでおり、その圧倒的な採掘力と規律無視の姿勢が浮き彫りになっています。
ガーナのタルクワ金鉱山で警備にあたる保安要員。中国の違法金採掘が懸念される中、世界各地の金資源現場における監視体制の一端。
違法採掘業者は、環境や安全に関する国際的な規定をほとんど守らず、深刻な生態系破壊を引き起こしています。WPの報道によると、中国の各組織は鉱山にスプリンクラーを設置し、強力な毒性物質であるシアン化物を無差別に散布しているとのこと。ラントゥン村では、化学物質が混じった雨水により農作物や家畜が大量に斃死する被害が発生しており、環境への配慮の欠如が明らかになっています。
中国が違法採掘に走る背景:米ドル覇権への対抗
中国がこれほどまでに違法な手段を動員して金を集める背景には、米国のドル覇権に対抗するという戦略的な狙いがあるとWPは分析しています。「中国は米ドルへの依存度を減らし、将来的な米国の制裁から自国を保護し、国際通貨システムにおける影響力を強化するための戦略的努力として金を確保している」と指摘されています。
これまで、中国がどこから金を調達しているのかは不明な点が多かったのですが、今年、中国人民銀行が発表した金の保有量は7396万トロイオンス(約2294トン)で、米国やドイツに次ぐ世界第6位(国際通貨基金を除く)です。しかし、一部の投資銀行は、中国が非公式にさらに多くの金を買い入れており、その実際の保有量は公式発表の2倍を超えるとの見方を示しています。経済協力開発機構(OECD)の鉱物分析家デビッド・スッド氏はWPに対し、「中国の組織が違法な金取引に深く関与しており、彼らが採掘またはその他の方法で確保した金の相当量が、極めて不透明なサプライチェーンを通じて中国に流入している」と述べています。
不透明なサプライチェーンと国際社会の警鐘
これらの違法な金採掘企業に対する中国当局の監督や処罰は、ほとんど行われていないのが現状です。中国の鉱山会社は、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で投資家に対し、「インドネシアの金埋蔵地に無料で簡単にアクセスできる」と公言していると報じられており、これは違法行為を助長する姿勢と見なされています。
WPによると、インドネシア、ガーナ、フランス領ギアナなど、少なくとも15カ国が中国または中国企業を相手に、違法な金採掘に関する訴訟を起こしています。フランスの国防シンクタンク戦略研究財団(FRS)は2023年の報告書で、「ギアナでは中国の投資家が違法な物流チェーンを形成しており、彼らを排除するためには年間数千万ドルが投入されている」と指摘。これは「中国政府が助長する世界的な資源搾取および略奪現象の一部」であると強く批判しています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)も今年5月、「組織犯罪が金の供給網に深く浸透し、深刻な世界的脅威を招いている」と警鐘を鳴らし、違法な金取引に麻薬カルテル、テロリスト、傭兵集団までが関与していることを明らかにしました。
各国の対応と増す警戒感
米国も中国の動きを警戒し、金確保競争に乗り出しています。ドナルド・トランプ前米大統領は今年3月、金を戦略鉱物に指定する行政命令に署名しました。下院外交委員会アフリカ小委員会のクリス・スミス共和党議員(ニュージャージー州選出)は、中国とその鉱山産業を「違法な金取引の最大の受益者」と強く非難しています。
結論
中国による世界各地での違法な金採掘は、単なる経済活動に留まらず、環境破壊、人権問題、そして国際的な政治・経済秩序に深刻な影響を及ぼしています。米ドル覇権への対抗という中国の戦略的動機は、金資源を巡る国際的な緊張をさらに高める要因となっており、今後もその動向と各国の対応が注目されます。国際社会は、この「鉱山マフィア」の活動に対し、より一層の連携と強力な対策を講じることが求められています。
情報源
- ワシントン・ポスト(The Washington Post)
- ロイター(Reuters)
- 経済協力開発機構(OECD)
- フランス戦略研究財団(FRS)
- 国連薬物犯罪事務所(UNODC)
- 聯合ニュース