株価高騰の背景:トランプ関税と日米貿易交渉が市場にもたらした影響

今週(8月12日〜15日)の株式市場は、米国株の上昇に牽引され、日経平均株価およびTOPIX(東証株価指数)が連日最高値を更新するなど、活況を呈しました。このような力強い相場の動きは、「理屈は後から貨車で来る」という格言が示す通り、投資家心理と市場の根源的な変化を反映していると言えるでしょう。専門家による後講釈も多々ありますが、まずは市場の動きそのものに注目することが重要です。

強気相場の始まり:悲観から生まれた市場の回復

株式市場の動きを語る上で、「強気相場は悲観とともに生まれ、懐疑とともに成長し、楽観とともに成熟し、陶酔とともに終わる」という有名な市場格言があります。今回の株価高騰も、まさにこのサイクルを体現しているかのようです。市場に悲観主義が蔓延したのは今年4月、ドナルド・トランプ米大統領が「相互関税」の導入を宣言し、これを「アメリカにとっての解放の日」とぶち上げた瞬間でした。この発表は世界中の株価を約1割程度押し下げ、世界経済の先行きに暗い影を落としました。しかし、この最悪期とも言える悲観の局面こそが、現在の強気相場の出発点となったのです。

トランプ政策の再評価と「TACOトレード」の浸透

当初は世界経済の脅威と見なされたトランプ大統領の関税政策ですが、その後、市場の雰囲気は徐々に変化しました。「トランプ氏は実はそこまで怖くない」「意外と市場にフレンドリーかもしれない」という見方が広がり、投資家の間ではいわゆる「TACOトレード」が浸透していきました。TACOトレードとは、「Trump-America-China-Optimism(トランプ-アメリカ-中国-楽観主義)」の頭文字を取った造語で、米中貿易摩擦の緩和期待が市場を押し上げる動きを指します。今週も、本来8月12日が期限であった米中間の関税引き上げ停止措置が、さらに90日間延長されたことが好感され、株価の爆発的な上昇の大きな契機となりました。

活況を呈する株取引所の様子。今週の株価高騰は、米中貿易摩擦の緩和や日米貿易交渉の進展が背景にあることを示唆しています。活況を呈する株取引所の様子。今週の株価高騰は、米中貿易摩擦の緩和や日米貿易交渉の進展が背景にあることを示唆しています。

日米貿易交渉の成果:自動車関税引き下げの功績

米中貿易関係の進展に加え、日米間の貿易交渉も市場のポジティブな雰囲気を後押ししました。特に、赤沢亮正経済再生担当相の尽力と、ロバート・ライトハイザー米国通商代表やソニー・パーデュー米農務長官(愛称「ラトちゃん、ベッちゃん」)の協力により、日本は米国に対し「まずまずまし」な条件を引き出すことに成功しました。中でも特筆すべきは、分野別関税交渉における自動車関税の引き下げです。日本の自動車産業にとって大きな懸念であった25%の関税が15%に値切られたことは、まさに殊勲賞に値する成果と言えるでしょう。この成果に続き、EU(欧州連合)や韓国も同様の手法で米国との貿易ディールをまとめる動きを見せました。日米韓の主要自動車メーカーが同条件で競争できるのであれば、関税による被害は当初懸念されたほど大きくならないと見込まれ、これが市場に安心感を与えました。

まとめ

今週の株価高騰は、当初の「トランプ関税」への悲観論が市場の回復基調に転じ、米中間の貿易摩擦緩和や日米貿易交渉の具体的な成果が相まって実現したものです。特に、自動車関税の引き下げは、日本経済にとって重要なマイルストーンとなりました。市場は常に先行きの不確実性を織り込みますが、具体的な進展や政策の見極めが、投資家心理を大きく左右することが改めて示されたと言えるでしょう。今後の政治・経済動向が、引き続き日本株の動向に大きな影響を与えることになります。


参考文献: