クマ被害急増の脅威:顔面損傷9割の実態と、日本初の専門書が明かす最前線の医療

近年、日本全国でクマによる被害が深刻化しています。2024年もまた、長野県や北海道で痛ましい死亡事故が相次ぎ、環境省の発表によれば、今年の4月から7月末までにクマに襲われて負傷または死亡した人数は全国で55人に上り、過去最多を記録した2023年とほぼ同水準の異常事態が続いています。このような状況下で、クマによる外傷の救急救命から後遺症軽減の治療までを網羅した画期的な医学書『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(新興医学出版社)が5月28日に出版されました。本書は、クマ被害の症例が特に多い秋田大学医学部附属病院で30年にわたり治療に携わってきた、秋田大学医学部救急・集中医療医学講座の中永士師明教授が編者を務めています。

急増するクマ被害の実態と深刻度

今年のクマ被害は、前例のないペースで増加の一途を辿っています。6月末には長野県大町市の山中でタケノコ採りをしていた40代男性が、また7月12日には北海道福島町で新聞配達中の50代男性がヒグマに襲われ命を落としました。これらの悲劇は、クマが人里近くまで出没し、人々の生活圏内で直接的な脅威となっている現状を浮き彫りにしています。環境省の統計が示すように、わずか数ヶ月で55人もの被害者が出ている事実は、もはやクマ被害が特定の地域や時期に限られた問題ではなく、日本全体で喫緊に対応すべき社会問題であることを物語っています。

画期的な専門書『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』の出版背景

このような危機的状況の中、クマ外傷の治療に特化した医学書が日本で初めて出版された意義は非常に大きいと言えます。編者である秋田大学の中永士師明教授は、30年もの長きにわたりクマ被害の最前線で患者の命を救い、後遺症の軽減に取り組んできました。特に、2023年には秋田県でのクマ被害が異常に多発し、秋田大学病院には多数の症例が集積。そこから得られた膨大な臨床知見は、日本だけでなく世界的に見ても類を見ないものです。中永教授は、「他県の医療関係者にも知っていただいた方がいい」という強い願いから、これらの貴重な知見をまとめるに至りました。専門書でありながらも、一般の読者にも理解しやすいよう配慮された本書は、まさにクマ被害と向き合う医療従事者、そして国民全体にとって待望の一冊です。

クマ被害による重篤な外傷治療を網羅した専門書『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』のイメージクマ被害による重篤な外傷治療を網羅した専門書『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』のイメージ

クマ襲撃による「顔面損傷」の衝撃的な現実

『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』には、目を覆いたくなるような凄惨な患部写真が掲載されており、クマ攻撃の衝撃的な実態が克明に記録されています。中永教授が指摘するように、クマに襲われた被害者の実に9割が顔面に傷害を負っているという事実は、特に注目すべき点です。これは、クマ同士の争いが口を噛み合う形で行われるのに対し、人間に対しては腕を水平方向に大きく振る攻撃が多いためです。クマが立ち上がって繰り出すこの「水平フック」は、ちょうど人間の顔の高さに当たり、鋭い爪と強大な腕力によって顔がえぐられる結果を招きます。

報告されている症例の中には、眉間から両頬、上唇にかけて顔面中央部が剥ぎ取られ、鼻が失われた70代男性の事例や、片目あるいは両目を失明したケースも存在します。時にはクマの爪が折れて傷口に残るほどの強烈な一撃が顔面に加えられることもあり、その残忍性と破壊力は想像を絶します。

最前線で挑む再建治療の希望

顔面に重篤な外傷を負った被害者の症例は絶望的に思えますが、本書が示すのは、凄惨な傷からの回復と社会復帰への希望です。前述の顔面を剥ぎ取られた70代男性の症例では、高度な再建治療によって失われた鼻が美しく復元され、写真上ではほとんど判別できないほどに回復しているとのことです。

『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』は、こうした重傷患者の救急救命から、機能的・審美的な後遺症を最大限に軽減させるための最先端の治療法までを網羅しています。この専門書は、医療現場におけるクマ外傷への対応力を格段に向上させ、多くの被害者の命を救い、その後の生活の質を高めるための重要な指針となるでしょう。

クマ被害の増加は深刻な社会問題であり、その医学的アプローチの発展は急務です。中永教授と秋田大学病院の長年の研究と実践が結実したこの専門書が、今後のクマ被害対策と医療体制の強化に大きく貢献することが期待されます。

参考文献

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