運転士不足が深刻化し、地域バス路線の減便・廃止が進む中、バス業界の労働組合関係者と弁護士らが6月25日に東京都内で会見し、バス運転士の処遇改善を求める共同アピールを発表しました。公共交通を支える運転士の労働環境が、深刻な人手不足とサービス低下の背景にあると指摘されています。
東京都内の厚生労働省で記者会見を行うバス労働組合関係者と弁護士たち。バス運転士不足の深刻化に対応し、労働条件改善を訴える共同アピールを発表する様子。
顕在化する地域交通の危機:減便・廃止の現状
政府が5月に閣議決定した2025年版『交通政策白書』によると、全国の一般路線バス事業者が2023年度に廃止した路線の総延長は2496キロメートルに達し、これは前年度の約1.6倍に増加しています。このデータは、バス路線の減便・廃止が全国的な問題として顕在化していることを明確に示しており、地域住民の足となる公共交通網の維持が危ぶまれています。
運転士不足の根本原因:劣悪な労働条件
バス労組関係者と弁護士のグループは、こうした減便・廃止につながる運転士不足の大きな原因として、「労働条件が他の業種と比較して低く、運転士の確保が困難になっていること」を挙げました。アピールの呼びかけ人である尾林芳匡弁護士は、30年以上にわたりバスの職場の権利問題に取り組んできた経験から、「バスの職場の労働条件は悪化していると感じてきた」と強く訴えました。この証言は、長年にわたる構造的な問題を示唆しています。
共同アピールの具体的な要求事項
今回の共同アピールでは、バス運転士の処遇改善に向けた具体的な4点の要求が掲げられています。その中には特に、以下の2点が強調されました。
- 運転士の責任の重さにふさわしい賃金、少なくとも最低賃金の2倍以上への引き上げ
- 実労働時間を1日8時間、拘束時間は1日10時間へと短縮
これらの要求は、運転士が直面する過酷な労働環境と、それに伴う生活の不安定さを改善し、新たな人材の確保を促進することを目的としています。
現場の声:過酷な実態と悪循環
国際興業バスに勤務する槙野圭さん(休職中)は、自身の体験に基づき、「勤務時間のインターバルが8時間しかなく、平均して睡眠は1日3時間しか取れなかった。その中で体を壊した」と、過酷な実態を説明しました。また、西武バスユニオン執行委員長の矢口正さんは、現状が引き起こす悪循環について訴えました。 「基本給が低いために残業がなければ生活が保てず、その結果として事故が増え、事故が怖いから辞めるという悪循環に陥ってしまっている」と述べ、労働条件の悪化が直接的に安全問題と離職率の増加に繋がっていることを示唆しました。
バス運転士の労働条件改善は、地域住民の生活を支える公共交通インフラ維持に不可欠な課題です。今回の共同アピールが、業界全体の処遇改善と運転士確保に向けた重要な一歩となることが期待されます。