AIが彩る記憶:戦前・戦争の「今」を問うカラー写真集の意義

現代の高度なAI技術と人の手によりカラー化された、戦前・戦後の貴重な写真約350点を収録した書籍『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)が、2020年7月の出版以来、異例の累計発行部数7万部を突破し、大きな反響を呼んでいます。単なる歴史資料としてだけでなく、当時の生活や戦争の現実を鮮やかに蘇らせるこれらの写真は、私たちに深い洞察を与えています。

戦後間もない1945年9月15日、マーシャル諸島で撮影された日本兵たち。AI技術でカラー化され、当時の現実感を伝えている。戦後間もない1945年9月15日、マーシャル諸島で撮影された日本兵たち。AI技術でカラー化され、当時の現実感を伝えている。

太平洋戦争終結から80年目を迎える今年の夏、「終戦の日」は再び平和への意識を高める機会となります。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は未だ出口が見えず、ガザ地区では紛争が続くなど、国際情勢は緊張の度を増すばかりです。このような時代において、過去の戦争から学び、「いかに平和を守り、次世代に引き継ぐか」を深く考えることは、現代に生きる私たちの重要な責務と言えるでしょう。

「形あるものとして記憶を留める」書籍化への深い思い

本書の成功の背景には、担当編集者である光文社の高橋恒星さんの、歴史と記憶に対する強い思いがありました。高橋さんは、従来の歴史的・軍事的な視点から戦争を振り返る書籍だけでは不十分だと感じ、別の角度からアプローチしたいと考えていたそうです。そんな時、著者の渡邉先生が日々のTwitter投稿で発信していたカラー化された過去の写真に着目し、これらを一冊の写真集として形にすることを構想しました。

SNSが全盛の現代において、写真は手軽に共有され、瞬く間に「フロー」(流れる情報)として消費されてしまいます。しかし、高橋さんは「ツイートは流れて、明日には忘れられてしまう。『フロー』ではなく、『ストック』(形として残るもの)として留めることが非常に重要だ」と語っています。インターネット上では「バズらなかった」写真の中にも、歴史的、あるいは個人的な意味で大切なものが数多く存在します。それら全ての写真を均等な価値で扱い、時代を超えて共有される「形」として残すことに、書籍化の大きな意義があったのです。原爆投下や各地への空襲といった悲劇だけでなく、当時を生きる人々の何気ない“日常”を捉えた写真が約350点も収録されており、読者に多角的な視点から戦争とその時代を考える機会を提供しています。

新たな視点で歴史を捉え、平和への道を模索する

『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』は、単に白黒写真をカラー化した技術的な成果に留まりません。それは、過去の出来事をより鮮明に、より人間的な視点から捉え直し、現代の私たちに平和の尊さを訴えかける力強いメッセージを放っています。歴史の教訓を忘れず、国際社会が直面する課題と向き合う上で、本書は貴重な一助となるでしょう。


参考文献

  • 高橋恒星, 渡邉 英徳. 『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』. 光文社新書, 2020.
  • Yahoo!ニュース. 「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」. (記事参照元へのリンクは省略)