就職氷河期を生き抜いてきた世代は、いつしか中高年と呼ばれる年齢に差し掛かり、世代間の格差は拡大の一途をたどっています。貧困や「生きづらさ」を抱える彼らが、これからの人生をどのように考え、向き合っていくのかは社会全体にとって重要な課題です。本稿では、非正規雇用を長年続けるユウコさん(仮名、45歳)の事例を通し、労働組合がその「生きづらさ」を乗り越える上でいかに重要な役割を果たすかを探ります。
非正規雇用で働くユウコさんが、労働組合の信念を語る様子。待遇改善はSDGsに繋がる。
長期化する就職氷河期世代の苦境:非正規雇用の連鎖
ユウコさんの履歴書には、初職から非正規雇用契約がずらりと並びます。非常勤事務補助員、アルバイト、契約社員といった職歴は、就職氷河期世代の過酷な現実を凝縮しています。給料の低さから同時期に複数の会社でダブルワークをせざるを得なかったこともあり、その生活の厳しさがうかがえます。しかし、彼女自身は「のらーりくらーりと生きてきました」と語り、そのおおらかさの背景には10年ほど前に加入した労働組合の存在が大きいと言います。
ユウコさんの履歴書には非正規雇用の職歴がずらりと並び、就職氷河期世代の過酷さを物語る。
労働組合の役割:声なき労働者の権利を守る力
ユウコさんは労働組合を通じて「“こうだったらいいのに”と思うことを会社に素直に言えています」と語り、それが息苦しさを感じない理由だと述べます。例えば、現在働く店舗で客に渡すレシートにスタッフのフルネームが印字され、女性スタッフから不安の声が上がった際、労働組合が会社と交渉し、現在は苗字のみの記載に変わりました。些細なことではあっても、ユウコさんはそこにやりがいを感じています。
日本では労働組合の組織率は低下の一途をたどっており、このようなご時世において労働組合を「自己表現の場」だと捉えるユウコさんは、むしろ少数派と言えるかもしれません。しかし、彼女の経験は、労働組合が個々の働き手の声を聞き、具体的な改善へとつなげる重要な役割を担っていることを示しています。
構造的課題と個人の選択:生き抜くための戦略
地方都市の私立大学、大学院を卒業したユウコさんですが、学生時代には積極的に就職活動を行いませんでした。先輩たちから「長時間労働で体を壊した」「ノルマが大変」といった「ブラック企業」での理不尽な体験談を耳にし、正社員としての厳しい働き方に抵抗があったためです。現在の非常勤事務補助員としての手取りは15万円と決して多くはありませんが、労働組合という支えがあることで、自身のペースで働き続ける道を選んでいます。
就職氷河期世代が直面する貧困や「生きづらさ」は、単なる個人の問題ではなく、社会構造的な課題です。非正規雇用が長期化する中で、ユウコさんのように労働組合を拠り所とし、自身の権利を守りながら「しぶとく」生き抜く姿は、多くの同じ境遇にある人々にとって、希望と具体的な選択肢を示唆しています。社会全体で彼らの生活の安定と尊厳を保障するための、さらなる支援と制度改革が求められます。
参考資料
- 藤田和恵「就職氷河期世代のリアル「手取り15万円」45歳女性が「のらーりくらーりと生きてきた」と言い切るワケ」東洋経済オンライン、2024年8月22日、https://toyokeizai.net/articles/-/899310