2025年夏の参院選で大きな注目を集め、国内メディアを席巻した参政党。しかし、その熱狂とは対照的に、海外メディアの反応は驚くほど冷淡でした。なぜこのような温度差が生まれるのでしょうか。国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は、その背景に日本の地政学的な存在感の低下と、米国を揺るがす巨大な国内問題があると指摘します。海外メディアが参政党のイデオロギーを「スルー」する一方で、その経済政策がもたらす「財政リスク」に鋭い監視の目を向けている実態を、同氏の分析を交えながら解き明かします。これは、みんかぶプレミアム特集「参政党が勝ち、リベラルが負けた理由」の第2回です。
政治家が経済政策について記者会見で発言する様子。アメリカの国内問題や関税政策が国際社会に与える影響を象徴。
アメリカ政治の「静かなるクーデター」:国家中枢の信頼性崩壊の危機
アメリカの関心が日本に向かない理由は、単にエプスタイン事件のような個別のスキャンダルに留まりません。トランプ政権下のアメリカでは、深刻な国内問題が国家の中枢を揺るがしています。一つは、政権による国家機関への露骨な介入です。トランプ氏は、自らが喧伝する好景気にそぐわない客観的なデータを公表したとして、雇用統計の担当局長を解任しました。これは、政権にとって不都合な真実を力で捻じ曲げようとする行為であり、国家統計の信頼性を根底から揺るがすものです。
同様の圧力が、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)にも向けられています。トランプ氏は、景気刺激のためFRB議長に対して公然と「利下げ」を要求し、連日のように批判を浴びせてきました。さらに、FRBの理事が不可解な辞任を遂げ、その空席にトランプ氏の息のかかった人物が就任できる状況が生まれています。中央銀行の独立性は、その国の通貨と経済の信用の礎です。それを政権の都合で歪めようとする動きは、アメリカ経済に深刻な信用不安をもたらしかねません。このような「静かなるクーデター」とも呼べる事態が進行している中、海外メディアが日本の特定の政党に深く踏み込む余力がないのは当然と言えるでしょう。
トランプ関税政策の「皮肉な現実」:日本車が優位に立つ背景
鳴り物入りで導入されたトランプ政権の関税政策も、その矛盾を露呈し始めています。トランプ氏は、関税によってアメリカ国内に製造業を取り戻し、「偉大なアメリカの復活」を実現すると豪語しました。しかし現実は、多くの企業が関税発動前に中国などから商品を「爆買い」して倉庫に在庫を積み上げており、短期的な効果は限定的です。そして、いずれ在庫が尽きたとき、関税分は価格に転嫁され、インフレとなって消費者の生活を直撃します。これは実質的な「増税」であり、有権者の不満を高める劇薬となり得ます。
さらに皮肉なのは、日本の自動車メーカーの動向です。歴史的な円安という追い風もあり、日本の自動車は関税をかけられてもなお、国際的な競争力を維持しています。一方で、フォードのようなアメリカの自動車メーカーは、多くの部品を海外からの輸入に頼っているため、関税によって自らの製造コストが上昇し、価格競争で不利になるという、ねじれた状況すら生まれているのです。このように、国内の混乱と経済政策の矛盾に直面するアメリカの視点から見れば、日本の政党のイデオロギーよりも、世界経済に直接影響を与える自国の問題への関心が高まるのは必然の流れと言えるでしょう。
今回の分析から、海外メディアが参政党の躍進に「冷淡」な背景には、日本の地政学的存在感の変化に加え、アメリカ国内で進行する国家中枢の信頼性に関わる深刻な問題や、矛盾をはらんだ経済政策が大きく影響していることが明らかになりました。世界はより複雑な構造の中で、各国の政治動向を評価していると言えます。
出典
モーリー・ロバートソン氏分析、みんかぶプレミアム特集「参政党が勝ち、リベラルが負けた理由」第2回より。