子どもの失敗は「成長の糧」:問題解決能力と挑戦心を育む親の見守り方

子どもには失敗してほしくない。そう願う親の思いが強くなるほど、つい先回りして手を差し伸べがちです。しかし、子どもが本当に大きく育つのは、失敗を経験しながらも問題解決能力を身につけ、自分自身の「好き」を見出した時だと言われています。では、親はどこまで子どもの成長に関わり、どこから温かく見守るべきなのでしょうか。本稿では、子どもの健全な発達を促す「失敗」の重要性と、親が実践すべき見守り方について詳しく解説します。

「失敗は成長の糧」という認識へ:親子の意識改革

問題解決能力を育む失敗経験

失敗は、次にどうすればうまくいくかを深く考えさせることで、子どもの問題解決能力を飛躍的に向上させます。東京大学の教育心理学研究でも、一度の失敗経験がその後の問題解決行動に積極的な影響を与えることが明らかにされています。社会に出て責任ある仕事を任されるようになると、失敗が許されない場面も増えてきます。だからこそ、まだ成長過程にある子ども時代に、たくさんの小さな失敗を経験し、試行錯誤を通じて課題解決スキルを育むことが非常に重要なのです。

日本人の「失敗恐怖症」と「完璧主義」

世界的に見ても、日本人は失敗に対する恐怖心が強い傾向にあります。「何事も完璧にこなさなければならない」「失敗すればダメな人間だと思われる」といった意識が根強く存在しています。大人がこれほど失敗を恐れる姿を見ていると、子どもたちも「失敗は悪いことだ」と思い込んでしまいがちです。このため、大人だけでなく子どもにも、いかに早く「失敗は悪いもの」という思い込みを捨てさせるかが、教育における重要な課題となります。石橋を叩いて渡るように失敗しない道ばかりを探していては、時代の変化に対応できず、かえって成長の機会を失いかねません。むしろ、「30%くらいはこうした方がいいだろう」と感じたらすぐに動き出し、動きながら軌道修正を繰り返す方が、結果的に良い成果につながりやすくなります。

最適な学びを生む「85%ルール」

アメリカのアリゾナ大学の研究では、「85%の確率で正答し、15%の確率で誤答する時に、最も大きな学習効果が現れた」という「最適学習85%ルール」が実証されています。これは、学習内容に15%程度の難しい問題を含めることで、学習効果が最大化されることを意味します。子どもたちが小さな失敗を数多く経験することで、失敗を過度に恐れない姿勢が自然と身につきます。勉強、スポーツ、工作、料理、実験など、子どもの日常には小さな失敗の宝庫が広がっています。子どもが失敗して泣いたり、苛立ったりしても、意外と気持ちの切り替えは早いものです。

遊びを通して小さな失敗から学ぶ子どもの姿遊びを通して小さな失敗から学ぶ子どもの姿

小さな失敗を繰り返す勇気

もし子どもが「続けたい」と望むのであれば、多少うまくいかなくても挑戦を続けさせてみましょう。同じ失敗を繰り返すようなら、そっとヒントを与える程度のアドバイスに留めるのが賢明です。「失敗しても、改善を加えて努力を続ければ必ず上達する」ということを教えていくことで、困難を乗り越えるやり抜く力、すなわち「グリット(GRIT)」につながっていきます。子どもは遊びの天才であり、同時に失敗の天才でもあります。そもそも子どもは、失敗を失敗だと思わない強みを持っていますから、どんどん「失敗慣れ」させてあげることが大切です。

「量」が「質」を凌駕する:実践が導く真の成長

陶芸クラスの実験が示すこと

「失敗は質と量、どちらが大事か」という問いに対しては、『Art & Fear』という本で紹介されている陶芸クラスの実験が非常に参考になります。この実験では、クラスを2つのグループに分け、一方は作品の「量」(より多くの作品を作った方が高評価)、もう一方は「質」(最高の作品を作った方が高評価)で評価されました。驚くべきことに、最も質の高い作品が生み出されたのは「量」のグループでした。「量」のグループは1時間ずっと粘土をこね続けましたが、「質」のグループは50分間話し合いに時間を費やし、実際に制作したのはわずか10分間だったのです。この実験からわかるのは、完璧にこだわって頭でばかり考えていても質は向上しないということ。手を動かして実際に制作し続けた時間の長さこそが、最終的に質を高めてくれるのです。

試行錯誤から生まれる熟練

これは、多くの職人の世界でも共通する真理です。私自身の寿司修行の経験でも、最初はアジの三枚おろしすらまともにできなかったものが、回数を重ねるうちに自然と上達していきました。車海老の仕込みにおいても、何度も失敗と修正を繰り返し、指先で感じる微細な感覚を身につけていったのです。理論だけでは決して到達できない領域に、実践と失敗の積み重ねが導いてくれることを示しています。


子どもの成長において、失敗は避けるべきものではなく、むしろ積極的に歓迎すべき貴重な学習機会です。親が子どもの失敗を恐れて先回りするのではなく、挑戦する姿勢を認め、小さな失敗から学び、立ち直る力を信じて見守ることが、彼らの問題解決能力や挑戦心を育む上で不可欠となります。完璧を求める思考よりも、試行錯誤を繰り返す「量」の経験こそが、子どもの真の成長と熟練を促します。今日から、「失敗は悪いもの」という思い込みを捨て、子どもが自ら道を切り開く力を育む環境を整えていきましょう。


参考文献

  • 小宮山利恵子 著 『好奇心でゼロからイチを生み出す「なぜ?どうして?」の伸ばし方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
  • 東大学習科学研究における失敗経験に関する研究
  • アリゾナ大学による「最適学習85%ルール」に関する研究
  • Ted Orland, David Bayles 著 『Art & Fear: Observations On The Perils (and Rewards) Of Artmaking』(Image Continuum Press)