米価の異常な高騰が「令和の米騒動」として国民の食卓を直撃している。先日、JA直鞍の堀勝彦組合長が小泉進次郎農水相に対し「ぜひ、農協をなくさないように」と直訴したことは大きな話題となった。これに対し小泉農水相は「農協なのか、農協でないプレーヤーなのか、それを選ぶのは農家の皆さん」と応じ、既存の枠組みにとらわれない視点を示した。しかし、日常の主食である米がこれほどの高値で取引されるようになった背景には、単なる気候変動や一時的な需給バランスの崩れだけではない、日本農業の根幹に横たわる構造的な問題が存在するのではないだろうか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が指摘するように、長年の制度疲労を直視し、農家の創意と努力が正当に報われる新たな仕組みを構築できるかが、今、問われている。
「令和の米騒動」の裏側:自民党と農水省が招いた「人災」
現在、日本の食卓を揺るがす「令和の米騒動」は、自民党と農水省が長年続けてきた政策の誤算、いわゆる「人災」によって引き起こされた側面が大きい。スーパーマーケットの店頭では、5kgあたり4,000円を超える米がもはや珍しくなく、多くの家庭で家計を圧迫している。
具体的な数字が事態の深刻さを物語る。JA全農あきたが提示した2025年産あきたこまちの概算金は、60kgあたり2万8300円に達し、前年当初比で驚異的な68.5%もの異常な高騰を記録した。さらに、JA全農新潟県本部に至っては、一般コシヒカリの仮渡し金を3万円という、これまでの常識を覆す水準に設定。これは前年比76%増という、市場の機能が完全に麻痺していることを示す数字である。
政府は国民の不安を鎮めるべく、備蓄米の放出という手段に打って出た。しかしその効果は限定的で、価格高騰の勢いは一向に衰えることなく、放出された備蓄米は「焼け石に水」の状態となり、かえって市場の混乱を助長する結果となった。
実り豊かな田園風景。日本における米価高騰と農業問題の象徴。
補助金依存からの脱却こそ、日本農業再生の鍵
今回の米価高騰は、一時的な天候不順や需要増だけで説明しきれるものではない。これは、実に70年以上にわたって続いてきた「保護農政」という仕組みそのものが限界を迎え、日本の農業がその本来の活力を取り戻すための大きな転機に差し掛かっていることを示唆している。補助金や過剰な規制によって農家を囲い込むような政策は、これまで農家の努力や創意工夫が正当に評価されにくい環境を生み出し、結果として意欲の減退や流通の硬直化を招いてきたのが現状である。
今、日本農業に本当に必要とされているのは、補助金や所得保障といった既存の仕組みへの依存から脱却し、農家自身の取り組みや生産活動が市場で直接的に評価され、収益へと直結する環境を整備することである。このような変化は、意欲ある農家がより高い収益を上げやすくなり、それぞれの地域における存在感を強めることに繋がるだろう。三菱総合研究所の分析による『令和のコメ騒動』シリーズでも指摘されているように、政府が実施した備蓄米の放出が価格抑制効果をほとんど見せなかった事実は、従来の政策がもはや機能不全に陥っていることを明確に示している。
結論:持続可能な日本農業への改革を急げ
「令和の米騒動」は、単なる一過性の現象ではなく、日本の農政が抱える根深い構造的問題を浮き彫りにした。長年続いた保護政策がもたらした補助金依存と市場の硬直化は、結果として米価の異常な高騰を招き、国民の食卓を脅かしている。この危機を乗り越え、持続可能で競争力のある日本農業を再構築するためには、旧態依然とした政策からの脱却が不可欠である。農家が自らの手で価値を創造し、それが正当に評価される市場原理に基づく新たな農業の仕組みを早急に確立することが、食料安全保障と国民生活の安定に繋がる道となるだろう。
参考文献
- 小倉健一(作家・経済誌プレジデント元編集長)氏の寄稿記事
- JA全農あきた、JA全農新潟県本部による概算金・仮渡し金発表
- 三菱総合研究所「令和のコメ騒動」シリーズ分析