かつて「R-1ぐらんぷり2013」で優勝し、日本中を笑いの渦に巻き込んだお笑い芸人・三浦マイルドが、認知症を患う母親の介護のため故郷・広島県江田島市へ戻り、新たな生活を送っている。彼の葛藤と親子の絆を描いたドキュメンタリー番組「笑いと償い マイルド故郷に帰る 〜認知症の母が教えてくれたこと〜」(フジテレビ)が放送され、大きな反響を呼んだ。この物語は、栄光の舞台を経験した一人の芸人が、現実の介護という困難に直面しながらも、母親への深い愛情と自身の夢を両立させようとする姿を映し出している。
栄光の舞台から介護の現実へ:R-1王者の故郷での挑戦
番組は、三浦マイルドが広島弁講座のフリップネタを披露し、R-1の紙吹雪を浴びる華やかな当時の映像から幕を開ける。しかし、その光景は一転し、現在の三浦が自宅の床を雑巾で拭く、日常の厳しい現実に切り替わる。部屋の奥には、一日の大半を布団で過ごす母親の姿があった。彼が故郷に戻ったのは昨年2月。2年前の自宅は、片付けられないほどの物とゴミに溢れかえり、家中が排泄物まみれという目を覆いたくなるような状態だったという。その中で母親は痩せ細り、三浦は目の前の光景に唖然とした。
故郷・広島県江田島市で認知症の母親を介護する三浦マイルドさん
認知症の母との共同生活:困難と向き合う日々
共同生活を始めてからの日々は、決して平坦ではなかった。一口食べたハーゲンダッツが放置され、ぶよぶよになった紙カップがいくつも並ぶ。冷凍庫に入れるよう何度注意しても直らず、風呂に入れようとすれば激しく拒絶される。認知症の進行により、母親は日々の生活の中で様々な困難を抱えていた。それでも三浦は、「姥捨て山に母親を捨てたような罪悪感」から目を背けることなく、根気強く母親とのコミュニケーションを図り続ける。彼の献身的な介護は、視聴者に家族介護の厳しさと、それ以上に深い親子の愛情を問いかけた。このドキュメンタリーは、テレビ新広島が制作し、「第34回FNSドキュメンタリー大賞」のノミネート作品として選ばれている。
芸人への道のりと母の思い:夢を追い続けた覚悟
三浦は母子家庭で育った一人息子である。幼少期にダウンタウンに魅せられ、お笑い芸人の道を志した。関西の大学を卒業後、大阪NSCに入学。母親は「不安定な職業」だと猛反対したが、彼はその声に背き、夢を追い続けた。何度かコンビを結成するも上手くいかず、ちょうどその頃に「R-1ぐらんぷり」の開催(2002年)が発表される。彼は同大会の予選会場でピン芸人としての初舞台を踏むことになった。YouTubeチャンネル『R-1グランプリ』の動画「【おいでやす小田×三浦マイルド 泥酔ガチトーク】こぼれ話その①」で、彼は当時の心境を「NSCで3回コンビ組んでダメで。(中略)もうひとりでやろうって。そこで腹括って。何が何でもこの世界で生きていきたかったから」と語っている。母親の介護という新たな現実に向き合いながらも、彼の中には芸人としての強い覚悟が今も息づいている。
R-1王者の輝かしい過去と、認知症の母親を介護する現在の厳しい現実。三浦マイルドの生き方は、私たちに家族の絆の尊さ、そして困難の中でも前向きに生きる人間の強さを教えてくれる。彼の故郷での新たな挑戦は、多くの人々に勇気と感動を与え続けるだろう。
参考文献
- Yahoo!ニュース (2023年8月26日). R-1王者の三浦マイルドが広島へ帰った「笑いと償い」 認知症の母の介護で感じた“罪悪感”. https://news.yahoo.co.jp/articles/bdec95ff507bd2a431e37e216bb59cbfe10f6550
- 東洋経済オンライン. R-1王者の三浦マイルドが広島へ帰った「笑いと償い」 認知症の母の介護で感じた“罪悪感”. https://toyokeizai.net/articles/-/690022
- FNSドキュメンタリー大賞. 第34回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品. https://www.fujitv.co.jp/fnsd/archive/34th.html