中国を拠点とするEVメーカーBYDは、日本市場での存在感を着実に高めており、2025年末のPHEV導入、そして2026年後半の軽EV投入を控え、その動向が注目されています。同社は、独自のLFPブレードバッテリーによる安全性と耐久性、次世代基盤「Super e-Platform」による最大1000kW級の超急速充電技術で、電気自動車(EV)業界の未来を切り拓いています。3次元冷却による効率的な温度管理は、幅広い環境下での安定的な充電を可能にし、ユーザー体験を劇的に向上させることでしょう。BYDの最新技術が明らかになった「BYDバッテリー&SDV勉強会」から、その革新的なバッテリー技術とSDV(Software Defined Vehicle)の全貌を深く掘り下げていきます。
日本市場での存在感を増すBYDと今後の展開
EVの世界販売でテスラと激しい競争を繰り広げるBYDは、本拠地の中国だけでなく、グローバル市場、特に日本においてもその影響力を強めています。2023年1月から2025年6月末までの日本国内での登録台数は5305台に達し、販売ネットワークの拡充にも積極的に取り組んでいます。直近の2025年5月と6月には過去最高の登録台数を記録し、輸入車ブランドの中で6月は11位にまで上昇、10位のプジョーを射程圏内に捉える勢いです。
BYDは、日本市場のニーズに合わせたラインナップの拡充を計画しており、2025年末にはPHEV(プラグインハイブリッド車)モデルを、そして2026年後半には日本専用設計の軽EV(軽電気自動車)を導入予定です。これにより、より多様な選択肢を提供し、さらなる販売拡大を目指しています。現在日本で展開されているモデルには、コンパクトEVのDOLPHIN(ドルフィン)、Cセグメント級SUVのATTO3(アットスリー)、DセグメントセダンのSEAL(シール)、そしてDセグメント級クロスオーバーSUVのSEALION 7(シーライオンセブン)があります。
安全性と耐久性を誇るBYDブレードバッテリーの真価
BYDのEVが採用するブレードバッテリーは、薄いブレード(刃)状の形状が特徴で、日本メーカーが広く採用する三元系リチウムイオンバッテリーとは異なり、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)を正極材に使用しています。このLFPバッテリーは、レアメタルであるコバルト、マンガン、ニッケルを使用しないため、コストを抑えつつ高い熱安定性を提供します。モジュールなどの構造物が不要なシンプルな設計も特徴です。
BYDの先進ブレードバッテリーとSuper e-PlatformによるEV急速充電の様子
三元系バッテリーがエネルギー密度の高さや安定した出力特性、小型軽量化に優れる一方で、LFPバッテリーは充電と放電を繰り返しても結晶構造が崩壊しにくく、酸素の放出が少ないため、発火のリスクが低いという顕著な安全性と耐久性を誇ります。BYDのブレードバッテリーは、このLFP技術を最大限に活用し、EVの心臓部であるバッテリーの安全性と長寿命化を追求しています。
EVの未来を拓く「Super e-Platform」と革新的な急速充電技術
BYDは2025年3月、内燃機関(ICE)車両の給油時間と同等の急速充電で、同レベルの航続距離を可能にする画期的な「Super e-Platform」技術を発表しました。この次世代プラットフォームには、EVの充電速度を大幅に短縮する技術や、最高速度300km/h超を達成する高性能モーターの搭載など、数々の革新的な技術が盛り込まれています。
「Super e-Platform」は、ポルシェやアウディなどが採用し始めた800Vアーキテクチャを超える、1000Vアーキテクチャを実現し、最大1500Vの耐電圧を備えています。これにより、580kWの強力なモーターを搭載し、0-100km/h加速2秒台、最高速度300km/hという驚異的なパフォーマンスを可能にします。
さらに、BYDは充電インフラの革新も進めています。「メガワットフラッシュ充電パイル」と称される充電器は、1つの充電器に2つの充電ガンを備え、利便性を向上させています。2ガン同時使用時には合計1360kW(車両2台同時利用)の充電出力が可能で、1ガン単独では量産車最高水準の1000kW(1メガワット)の充電出力を達成します。これは、1秒あたり2kmの航続距離に相当する充電速度を意味し、EVの充電に関する課題を一掃する可能性を秘めています。
この充電性能の向上に大きく貢献しているのが、バッテリーの上下にヒートエクスチェンジャーを配置した3次元立体流路の採用です。この先進的な温度管理システムにより、効率が90%向上し、極寒の-30℃から酷暑の60℃まで、幅広い環境下で安定的な急速充電を実現します。なお、「Super e-Platform」が最初に搭載されるのは、フラッグシップセダンの「BYD Han L」とラージサイズSUVの「BYD Tang L」の2モデルですが、現時点ではこれらモデルの日本導入はアナウンスされていません。
BYDは、ブレードバッテリーの安全性、Super e-Platformの超急速充電能力、そして総合的なパフォーマンスの向上を通じて、EVの普及を加速させる中心的な役割を担っています。日本市場におけるPHEVや軽EVの投入は、同社の技術がさらに多くの消費者に身近になることを意味し、今後のEV市場の動向に大きな影響を与えることでしょう。これらの技術革新は、単に航続距離や充電速度の改善に留まらず、EVの利便性と信頼性を飛躍的に高め、持続可能なモビリティ社会の実現に向けた重要な一歩となります。BYDの挑戦は続き、その進化から目が離せません。
参考文献
- 塚田勝弘(TSUKADA Katsuhiro), Motor-Fan.jp, 「BYDは独自のLFPブレードバッテリーで安全性と耐久性を確保し、次世代基盤『Super e-Platform』により最大1000kW級の急速充電を実現した。3次元冷却による温度管理効率向上で幅広い環境下でも安定的な充電を可能にし、2025年末のPHEV導入と2026年後半の軽EV投入を控え、日本市場での存在感を高めている。」 (2025年8月27日), https://news.yahoo.co.jp/articles/7a7e83ff2136fb74ac9cb68e45034065ba9fa14f