米ニューハンプシャー州で、中国企業や中国人投資家による戦略的な土地買収が相次いでおり、地元政治家や住民の間で米国の安全保障に対する深刻な懸念が広がっている。特に、軍事施設や重要インフラに近接する土地が標的となっており、これが「トロイの木馬」となり得るのではないかとの警戒感が高まっている。この問題は、地政学的なライバル関係にある米中両国の経済活動と国家安全保障のバランスを巡る議論を呼び起こしている。
米重要施設近隣での中国系土地買収の実態
過去10年間で、ニューハンプシャー州では複数の中国関連の土地買収が行われてきた。最も最近では今年1月、中国最大の飲料メーカー「農夫山泉」の創業者である鍾睒睒(チョン・シャンシャン)氏が、ナシュア市にあるペニチャック水資源施設の近くの土地を買収したことが問題視された。この買収は、国防上の脆弱性につながりかねないとして、地元当局が警戒を強めるきっかけとなった。
中国飲料大手「農夫山泉」創業者、鍾睒睒氏。同社の米ニューハンプシャー州での土地買収が、安全保障上の問題として注目されている。
さらに遡ると、2017年には中国人投資家リウ・スイ氏が、かつて航空大学であった元ダニエル・ウェブスター大学のキャンパスを取得した。その2年前の2015年には、中国の民間教育機関「ジャーフィ教育集団」が、リベラルアーツ系の私立大学チェスター・カレッジ・オブ・ニューイングランドを買収している。これらの取得された土地は、防衛関連企業のBAEやニュー・ボストン宇宙軍基地といった米国の軍事施設や防衛産業の拠点に近接しており、情報収集や妨害工作のリスクが懸念されている。
中国の「ソフトパワー」戦略と覇権への野望
これらの土地買収は、単なる経済活動に留まらないとの見方が強まっている。1988年に中国から米国に亡命した共和党の下院議員候補リリー・タン・ウィリアムズ氏は、これらを中国政府が推進する「ソフトパワー」拡大戦略の一環だと指摘する。ウィリアムズ氏は、中国が直接的な戦争ではなく「許容範囲内」での戦略を駆使し、自国に有利な世界秩序を構築しようとしていると分析する。彼女は「中国の目標は、2049年までに覇権国家になることだ」と述べ、米国の友人になる意図はないとの見解を示した。
ニューハンプシャー州選出の共和党上院議員ケビン・アバード氏も、自身の選挙区であるナシュア市が含まれることから、これらの買収が州および国の安全保障を脅かすとの懸念を表明している。重要施設周辺での外国資本による土地取得は、国家防衛上の重大な問題として認識されている。
中国側の反論:互恵的な経済関係の強調
こうした米側の懸念に対し、中国大使館の報道官リウ・ペンユー氏は、米中間の経済・貿易関係が「互恵的でウィン・ウィンの関係にある」と反論している。同氏は、長年にわたる中国企業の対米投資が、米国の雇用創出と経済成長に重要な貢献をしてきたと強調し、投資を安全保障上の脅威と見なすことに異議を唱えている。
結論
米ニューハンプシャー州における中国系資本による土地買収問題は、米中間の地政学的競争が経済安全保障という新たな側面で顕在化していることを示している。軍事施設や重要インフラに近い土地が外国資本によって取得されることは、国家安全保障上の潜在的なリスクとなり得るため、各国政府は外国からの投資に対して慎重な監視と適切な規制の枠組みを設ける必要に迫られている。この問題は、今後の米中関係の動向を占う上で重要な指標となるだろう。
参考文献
- Newsweek Japan (2024年8月28日). 米ニューハンプシャー州で、中国関連の土地買収が相次いだ。いずれも重要施設に近く、安全保障上の脅威だと自治体が対策に乗り出した. https://news.yahoo.co.jp/articles/4b0e2f1beccfdad4469995c2cea4ec9906577591