観光を経済の柱とするタイが、これまで主要な需要を牽引してきた中国人旅行客の誘致で深刻な課題に直面しています。2025年の中国人観光客受け入れ数は約500万人と予測されており、これは前年比で約25%もの大幅な落ち込みとなり、「タイ離れ」の傾向に歯止めがかからない状況です。観光収入の減少が懸念される中、タイ政府は多角的な戦略で活路を見出そうとしています。
バンコクのソンクラーン祭りで水鉄砲を楽しむ人々:タイ観光の活気を示す光景
中国人観光客激減の背景:治安悪化と高騰する宿泊費
タイ政府観光庁(TAT)は当初、2025年の中国人観光客誘致目標を690万人と設定していました。しかし、今年初めに発覚した中国人俳優がタイを経由してミャンマー国境地帯で拉致され、オンライン詐欺の拠点に監禁された事件が、治安への不安を増幅させ、旅行客のキャンセルが相次ぐ結果となりました。加えて、近年の宿泊料金の高騰などによる旅行コストの増加も敬遠され、中国人観光客の足はベトナムや日本といった周辺の競合国へと流れる傾向が見られます。この一連の要因が重なり、タイを訪れる中国人旅行客の減少に拍車をかけています。
地方観光地への深刻な影響と経済的警鐘
中国人観光客に特に人気が高かった古都チェンマイでは、現地のメディアによると、一時期ホテルの稼働率が30~40%にまで落ち込むなど、観光業への深刻な影響が出ています。チャーターバスの手配などを手掛ける旅行会社の経営者は、かつて1日6000~7000人いた団体客が100人以下に激減したと明かし、雇用の維持が極めて困難になっている現状を訴えています。国別では中国がかろうじて首位を保っているものの、この減少傾向は今後も続くとみられています。タイの大手銀行傘下の調査会社であるカシコン・リサーチ・センターは、2025年の外国人旅行客による観光収入が前年比3%減の1兆6200億バーツ(約7兆3700億円)になるという警鐘を鳴らし、観光業の回復に向けた抜本的な対策の必要性を強調しています。
多様化する誘致戦略:中東・欧州市場への注力
タイ政府は、航空便の増便などで中国人観光客の回復を模索する一方で、中東や欧州市場にも積極的に活路を見出そうとしています。カシコン・リサーチ・センターは、観光客誘致戦略において、短期滞在ながら一人当たりの支出額が高い中国人観光客、長期滞在で支出額が中程度の欧米人観光客、そして長期滞在かつ支出額が高い中東人観光客といった、地域ごとの旅行者の特徴を捉えた戦略が不可欠であると指摘しています。TATは、中東・アフリカ地域からの旅行客が2025年に前年比11%増の106万人に達すると予測し、先進的な検診や治療を提供する医療ツーリズムを軸に需要を喚起しています。また、欧州からも同16%増の818万人を見込み、環境意識の高い層にアピールする環境配慮型宿泊施設の整備などを進めることで、持続可能な観光モデルへの転換を図っています。
結論
タイ観光業は、中国人観光客の減少という大きな試練に直面していますが、単一市場への依存を脱し、国際的な観光客誘致の多様化を目指すことで、新たな成長の道を模索しています。治安改善、コスト競争力の強化、そして地域特性に応じたターゲット戦略を通じて、タイは「ほほ笑みの国」としての魅力を再構築し、持続可能な観光大国としての地位を維持しようとしています。
参考文献
- タイ政府観光庁(TAT)発表資料
- カシコン・リサーチ・センター報告書
- タイ地元メディア報道