日本映画界の快挙:李相日監督作『国宝』大ヒットに見る在日コリアン監督の視点

今年6月に公開され、日本映画の興行収入歴代3位という記録的快挙を達成した映画『国宝』は、観客動員数747万人、興行収入105億3000万円を記録しました。これは、日本で100億円の壁を突破した実写映画としては22年ぶりの出来事であり、その成功の立役者である李相日(リ・サンイル)監督(51)は在日コリアン3世です。歌舞伎という「最も日本的な伝統芸能」を題材にしたこの作品が、なぜこれほどまでに多くの観客を魅了したのか、そして監督のアイデンティティがその表現にどのように影響したのかが注目されています。

記録的ヒット作『国宝』の快挙

映画『国宝』は、長らく破られていなかった実写日本映画の興行記録を塗り替え、歴代3位に躍り出ました。2003年以来の100億円突破という偉業は、映画界全体に大きな衝撃を与えています。この作品が描くのは、日本の伝統芸能である歌舞伎の世界。その深遠なテーマと、見る者を惹きつける物語性が、幅広い層の観客の心をつかみました。

東京・新宿の映画館でインタビューに応じる李相日監督。新作映画『国宝』の成功と自身のアイデンティティについて語る東京・新宿の映画館でインタビューに応じる李相日監督。新作映画『国宝』の成功と自身のアイデンティティについて語る

李相日監督の「アウトサイダー」としての視点

東京・新宿でのインタビューに応じた李相日監督は、自身の在日コリアンとしての出自が作品に影響を与えたのかという質問に対し、「無理やり結び付けるのは単純な解釈ですね」としながらも、「私は社会の中心よりも外側にいる人々を描きます」と語りました。『国宝』の主人公である喜久雄もまた、歌舞伎の世界に外部から入り込んだ一種の「アウトサイダー」として描かれています。監督は、自身の立場が、特定の枠にとらわれない独自の視点をもたらしている可能性を示唆しました。

李相日監督の映画『国宝』の舞台となった歌舞伎の世界を描くワンシーン。主人公・喜久雄のアウトサイダーな存在感が際立つ李相日監督の映画『国宝』の舞台となった歌舞伎の世界を描くワンシーン。主人公・喜久雄のアウトサイダーな存在感が際立つ

アイデンティティと作品へのアプローチ

李相日監督は1974年に新潟県で生まれ、父親は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)系の新潟朝鮮初中級学校の教師でした。自身も横浜で小中高と朝鮮学校に通い、その後、神奈川大学経済学部に進学しています。「経済に関心があったわけではなく、ただ日本の大学に行きたかったんです。高校までの世界とは違う風景を見たかった」と、当時の心境を明かしました。彼は自身のアイデンティティについて、「今は韓国人なのか、日本人なのかと分けられる時代ではありません」「誰でも自分だけのカテゴリーがあります」「祖父母や両親の血を引いていますが、それだけで私を規定する必要はありません」と語り、多様なアイデンティティを持つ現代における個人のあり方を示唆しました。

結論

映画『国宝』の圧倒的な成功は、李相日監督の卓越した演出力と、社会の周縁に立つ人々を描き出す独自の視点が融合した結果と言えるでしょう。在日コリアンという出自を持つ監督が、日本の伝統芸能を題材に、特定のカテゴリーに囚われない普遍的な人間ドラマを紡ぎ出したことは、現代社会における多様なアイデンティティの可能性と、芸術が持つ境界を超える力を改めて示しています。

参考資料