「プロジェクトが終われば疎遠になる」「担当者交代で関係が途切れる」――ビジネスの現場で、このような悩みを抱える人は少なくありません。しかし、競争が激化する現代において、人脈は個人のキャリアを左右する重要な資産。その貴重な人間関係をいかに維持し、発展させていくかは、単なる偶然ではなく、意図的なスキルとして磨き上げるべきものです。本記事では、不朽の名著『人を動かす』の著者、D・カーネギーが提唱する「人を変える9原則」の精神を基に、途切れない人間関係を築き、人脈を維持するための具体的なアプローチを探ります。
関係が途切れないための意識:ビジネスにおける人脈維持の重要性
多くのビジネスパーソンが、「仕事の案件がないと連絡しにくい」「相手も忙しいだろうから」といった理由で、一度築いた人間関係が自然消滅してしまう経験をしています。ビジネス上のつながりだから仕方がないと諦める声も聞かれますが、実は人間関係の継続は、意識的に習得すべき重要なスキルなのです。
円滑に人脈を維持しているように見える人々は、共通して「次の接点」を自らデザインし、積極的に創造しています。単なる偶然に任せるのではなく、「次にどう声をかけるか」「どのタイミングで関係を再構築するか」といった戦略的な視点を持っているのです。私の人生の師である水野正人さん(実業家、元ミズノ代表取締役会長)からは、「人と会うとき、一期一会の精神を忘れてはならない」と教えられました。それは、常にその人との出会いが最後になるかもしれないという真剣な姿勢で臨むことの重要性を説いています。
ビジネスにおける人間関係構築と人脈維持の重要性を示す握手のイメージ
私自身、二十一世紀倶楽部(著者が設立した異業種交流団体)の活動で、現役総理大臣から大企業の経営者まで、多くの著名人を講演会に招いてきました。その際、一度講演を引き受けてくださった方々との関係が途切れないよう、継続的なアクションを意識的に起こし続けています。
「用事がない時こそ」が鍵:能動的な連絡が人脈を育む
具体的には、定期的な時候の挨拶はもちろん、二十一世紀倶楽部の会報誌を送ったり、誕生日には心を込めたプレゼントを贈ったりしてきました。さらに、秘書の方が交代したと聞けば、すぐに新しい秘書の方へご挨拶に伺うことも欠かしません。人が代わる節目は、人間関係のステージが切り替わる重要なチャンスと捉えられます。このタイミングを「再接点の機会」として捉えられるかどうかで、その後の関係の密度は大きく変わるのです。一見すると一度きりの関係で終わってもおかしくないような大物の方々とも、こうした接点を維持できていれば、また再びご一緒できる機会が巡ってくることも少なくありません。
現代社会では、新卒で入社した会社を定年まで勤め上げるというケースは少数派です。転職やキャリアチェンジが当たり前になった今、職場の枠を超えて人とのつながりを維持していく必要性は、ますます高まっています。私自身、広告代理店の大広から有線ブロードネットワークス(現USEN)に移籍した際、それまでに培ってきた人脈に何度も助けられました。
転職する後輩がいれば、「連絡先を教えてくれよ」と声をかけ、音沙汰がなければ「最近どうしてる?たまには会おうぜ」と電話をかけてみる。部署や業界が変わっても、以前一緒に仕事をした人には「こんな新しいことを始めたのですが、ご一緒できそうな案件があればぜひ」と伝え続ける――。そうすることで、実際に新たな仕事につながることも少なくありません。ここで最も重要なのは、「連絡をとる理由がないから遠ざかる」のではなく、「何もないときほど連絡をとる」という姿勢です。
心を伝えるコミュニケーション:関係性を深める秘訣
近況報告や飲み会の誘いなど、きっかけは何でも構いません。重要なのは、形式的な理由の有無にかかわらず、「あなたとの関係を大切にしている」という気持ちを相手に伝えることです。この心遣いが相手に届くことで、関係性は自然と維持され、途切れることがなくなります。日々の細やかな積み重ねが、やがて強固で信頼できる人脈へと発展していくのです。
結論:人脈維持は「意識的な行動」から生まれるビジネススキル
ビジネスにおける人間関係の維持は、偶然や運に左右されるものではなく、主体的な意識と継続的な行動によって育まれる重要なビジネススキルです。D・カーネギーの教えが示唆するように、相手の心をつかみ、関係性を深めるためには、一期一会の精神で一つ一つの出会いを大切にし、「次の接点」を自ら創造していく姿勢が不可欠です。用事がなくても連絡を取り合うこと、そして「あなたを大切に思っている」というメッセージを伝えること。これら能動的な働きかけこそが、現代の競争社会を生き抜くための、途切れない人脈を築く鍵となるでしょう。
参考文献
- D・カーネギー『人を動かす』(創元社 など)
- 一木広治『人望という技術 カーネギーに学ぶ人に好かれる習慣』(主婦の友社)