経済再生担当の赤沢亮正大臣が急遽訪米を取りやめたことが、日米間の新たな貿易摩擦の懸念を浮上させています。その背景には、アメリカ側から日本への米国産米購入拡大を求める大統領令案が提示されたとの報道があり、日本政府内で強い反発が生じていると見られています。この問題は、両政府間の貿易交渉における「認識のズレ」を浮き彫りにしており、今後の展開に注目が集まっています。
「コメはなんとしても守る」日本側の強い反発
自民党の森山裕幹事長は8月30日、米国産米の輸入拡大について否定的な見解を表明しました。「コメは日本の食文化の原点であり、なんとしても守らなければならない」と強調し、アメリカの「一国主義」的な手法に対し、日本も主張すべきは主張していくべきだとの姿勢を示しました。赤沢大臣の訪米中止について、同大臣は「アメリカ側との調整の中で事務的に議論すべき点があると判明した」と説明しています。
日本側が特に強く反発しているのは、アメリカの行政機関への指示書である大統領令に、日本が米国産米の購入を拡大する案を盛り込むとする報道です。小泉進次郎農水大臣は以前、「新たな海外からのコメの流入はない。ミニマムアクセス米の枠内で対応する」と説明しており、関税ゼロで輸入が義務付けられているミニマムアクセス米の範囲内で、アメリカ産米の輸入割合を増やす方針を示していました。しかし、国民民主党の玉木雄一郎代表はSNSで、「ミニマムアクセスの枠外での拡大を求められたのか?今さらそんなことをアメリカ側が言い出すとは、交渉は妥結しているのか」と疑問を呈しており、日米間の合意内容に大きな隔たりがある可能性が指摘されています。
日米貿易交渉における米国産米輸入拡大要求に対し、「コメは日本の食文化の原点」と強調する自民党・森山裕幹事長。
トランプ大統領の主張とホワイトハウスの公式見解
アメリカのトランプ大統領は、かねてから日本のコメ購入拡大を訴えてきました。2025年6月30日には自身のSNSで、「日本は我々からコメを買おうとしていません。深刻なコメ不足になっているのにです」と投稿し、日本の対応を批判しています。さらに、ホワイトハウスの公式ホームページには、日米合意の概要として「日本は輸入割当量を大幅に拡大し、米国産米の輸入を直ちに75%増加させる」と明記されており、日本政府の説明とは大きく異なる内容となっています。
この食い違いは、日米両政府間で合意文書が存在しないことが原因であると、専門家は指摘しています。
専門家が指摘する「認識のズレ」と今後の展望
野村総研のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏は、合意文書の欠如が両国間の認識のズレを生んでいると分析しています。木内氏は「悪いケースではアメリカと日本で文章でも合意できずに決裂し、15%の自動車関税が25%になってしまう可能性も残されている」と警告しています。しかし一方で、「アメリカ側も日本の事情を理解し、両国に都合のいいような曖昧な文章でアメリカ側も良いというのであれば、来週にも合意できる」可能性も示唆しており、今後の交渉の行方は予断を許さない状況です。
「相互関税」を巡る米国内の動向
今回の貿易摩擦は、トランプ政権の「相互関税」政策と密接に関連しています。この政策は、特定の国がアメリカ製品に高い関税を課している場合、アメリカも同等の関税を課すというものです。しかし、この「相互関税」を巡っては、アメリカ国内でも物議を醸しており、大統領に与えられた権限を逸脱し、違法であるとの判断を連邦控訴裁判所が示しています。トランプ大統領はこの判断に対し、連邦最高裁に上訴する意向を明らかにしています。
結論
赤沢大臣の訪米中止は、米国産米購入拡大を巡る日米間の深い溝と、貿易交渉における認識のズレを鮮明にしました。日本側は食文化の根幹であるコメの保護を強く訴える一方、アメリカ側は大規模な輸入拡大を求めており、両者の主張は平行線をたどっています。合意文書の不在がこの問題を複雑化させており、専門家は自動車関税の引き上げなど、さらなる貿易摩擦への発展を危惧しています。今後の日米交渉は、両国の経済関係のみならず、世界経済にも影響を与える重要な局面を迎えています。
参考文献
- テレビ朝日「グッド!モーニング」2025年8月31日放送分より
- Yahoo!ニュース(記事元: テレビ朝日)
- ホワイトハウス公式ホームページ