ホンダが「2040年に世界で販売する新車をすべてEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)にする」という大胆な「脱エンジン」目標を掲げてから数年が経過した。しかし、市場環境の激変により、当初目論んでいたEVを通じた「第二の創業」には黄信号が灯りつつある。先日、大手メディアが「ホンダがスーパーカブの生産を終了する」と報じ、SNS上で大きな反響を呼んだことも、同社の変革期における注目度の高さを物語っている。本記事では、『週刊東洋経済』の特集「どうする! ホンダ」に基づき、業界の異端児が直面する課題と現状を深掘りする。
スーパーカブに見るホンダの変革期
昨年報じられた「スーパーカブ生産終了」のニュースは、厳密には50cc以下の原動機付自転車(原付きバイク)のみが対象だ。排ガス規制の強化に伴い事業性の維持が困難と判断されたモデルに限定され、累計生産台数1億台を超える世界的ロングセラーである110ccバイクの生産・販売は継続される方針である。1958年の発売以来、市民生活に深く根差し、世界のモビリティ文化を牽引してきたスーパーカブに対するこの大きな反響は、ホンダブランドが持つ影響力と、その今後の動向への関心の高さを改めて示したと言えるだろう。
ホンダの世界的ロングセラーであるスーパーカブ。50ccモデル生産終了が報じられたが、同社の「脱エンジン」戦略と市場変化の象徴となっている。
革新を忘れた「異端児」への嘆き
「長らくヒット商品がない。市場を切り開く商品を生み出してこそホンダであるはずなのに」――多くのホンダ社員や部品メーカー、販売会社の関係者からは、現在の状況に対する嘆きの声が聞かれる。創業者の本田宗一郎氏が1946年に町工場を開業して以来、ホンダは挑戦と革新の歴史を刻んできた。スーパーカブ、低公害CVCCエンジン搭載の初代「シビック」、ミニバンブームの先駆けとなった「オデッセイ」、世界初のカーナビシステム、日本車初のエアバッグ搭載車、そして10年連続で国内販売台数首位を誇る軽自動車「N-BOX」など、常に独創的な製品を次々と生み出してきた企業だからこそ、現状への懸念は大きい。
次世代モビリティ市場での後れ
しかし、三部敏宏社長が「アコードやシビック、CR-Vを売れば、ある程度の台数が毎年計算できる。チャレンジせずとも安定した収益を見込めるのが今のビジネスモデルだ」と自戒を込めて語るように、ホンダは既存モデルに安住する傾向にある。
一方、EV(電気自動車)、自動運転、車載ソフトウェアといった次世代モビリティの領域では、中国のBYDや小米(シャオミ)、そして米国のテスラといった企業が圧倒的に先行している。これらの新興企業は、ソフトウェアの無線更新(OTAアップデート)によって機能や性能を向上させ、新車販売後も継続的に収益を得る新しいビジネスモデルを構築。さらに、使用しない時間を無人タクシー(ロボタクシー)として活用したり、二足歩行のヒト型ロボット開発に乗り出すなど、その進化のスピードと多角的な事業展開は、伝統的な自動車メーカーとは一線を画している。ホンダが「脱エンジン」の目標を達成し、再び市場をリードするためには、こうした新たな競争環境への適応と、革新的な製品開発への再挑戦が不可欠となるだろう。
ホンダは、かつて数々の独創的な製品で世界を驚かせた企業だが、今日の急変する市場環境と電動化への移行期において、重大な岐路に立たされている。従来の安定したビジネスモデルに安住することなく、創業時の精神に立ち返り、次世代モビリティへの挑戦を加速させることが、企業としての持続的な成長と「第二の創業」を成功させる鍵となる。今後のホンダの戦略と市場における動向が注目される。
参考文献
- 週刊東洋経済. 『どうする! ホンダ』9月6日号.
- Yahoo!ニュース. 「ホンダの『脱エンジン』目標に黄信号、市場の激変で『第2の創業』も危機【週刊東洋経済】」. https://news.yahoo.co.jp/articles/be7e540e0b2318b3b2ea196daa854bf7f4bdd0e7 (2025年9月1日アクセス)