近年、日本各地で頻発する地震は、多くの人々に南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった大規模災害への懸念を抱かせます。「近い将来必ず起こる」と指摘されるこれらの巨大地震は、一体どのような被害をもたらし、私たちはどのように備えるべきなのでしょうか。専門家の見解に基づき、正確な情報と心構えの重要性を探ります。
南海トラフ巨大地震:差し迫る脅威と新たな被害想定
今年1月、政府の地震調査委員会は南海トラフ巨大地震の「新被害想定」を公表し、30年以内の発生確率を「70~80%」から「80%程度」に引き上げました。これは、この巨大地震が日本の社会にとって極めて差し迫った脅威であることを示唆しています。
長尾年恭・日本地震予知学会会長(東海大学および静岡県立大学客員教授)は、南海トラフの発生が想定より早まる可能性に言及しています。専門家の間では、過去の宝永地震(1707年)、安政東海地震(1854年)、昭和南海地震(1946年)といった巨大地震のデータを分析し、プレートの跳ね返り周期から「2035年説」と「2038年説」の二つの時期が浮上しています。一方で、学会内では「30年以内の発生確率は20%」とする論文も存在し、意見が分かれているのが現状です。
鹿児島県トカラ列島で6月から発生している群発地震が、フィリピン海プレート全体の活性化を示唆しているとの指摘もあり、南海トラフとの関連性を不安視する声も聞かれます。フィリピン海プレート縁辺部では、火山噴火や軽石大量流出といった異常活動が相次いでおり、こうした動きが南海トラフの発生を早めるトリガーとなる可能性は否定できません。
南海トラフ地震や首都直下地震後の帰宅困難者対策と防災準備の重要性を示す街の様子
首都直下地震:老朽化するインフラの脆弱性
南海トラフ巨大地震と並んで大きな懸念となっているのが首都直下地震です。東京都、茨城県、千葉県などの南関東地域では、30年以内に70%の確率で発生すると予測されています。このタイプの地震は、その特性に応じた対策が強く求められますが、特に懸念されるのがインフラやライフラインの老朽化問題です。
長尾氏は、この問題の深刻さを指摘します。「千葉県北西部では、10年に一度ほどの頻度で深さやマグニチュード、震度がほぼ同じ地震が発生しています。しかし、地震の規模は同じであるにもかかわらず、水道管の破裂件数は増加傾向にあるのです。」これは、長年にわたるインフラの劣化が、同規模の地震でもより大きな被害を引き起こす可能性を示唆しており、都市機能の麻痺や生活への影響が深刻化する恐れがあります。首都圏の複雑な都市構造と膨大な人口を考慮すると、インフラの脆弱性は防災対策における喫緊の課題と言えるでしょう。
まとめ:防災シミュレーションと情報への心構え
南海トラフ巨大地震と首都直下地震は、いずれも日本社会に甚大な影響を与える可能性のある大規模災害です。発生確率が高まっていること、専門家の間で発生時期に関する議論が続いていること、そしてインフラの老朽化といった複合的な要因が、その脅威をより現実的なものにしています。
このような状況において、私たち一人ひとりに求められるのは、日頃からの防災意識の向上と具体的な準備です。自宅の耐震化、家具の固定、非常用持ち出し袋の準備はもちろんのこと、災害時の帰宅困難者対策や、家族との連絡手段の確認など、多角的なシミュレーションを行うことが防災の第一歩となります。また、政府や専門機関から発信される最新かつ正確な情報に常に耳を傾け、冷静に状況を判断する心構えを持つことが極めて重要です。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 「地震が発生すると家に帰れず行き場を失った人が街にあふれる。日ごろから被災時のシミュレーションをすることが防災の第一歩になる」
- AERA 2025年9月8日号: (記事内容より引用)
- 朝日新聞デジタル (dot.asahi.com): 「【徹底調査】地震が多い都道府県はここだ! 過去10年データ」