韓国の若者、なぜ「休んでいる青年」に?:労働市場の深層課題

近年、韓国の労働市場において「休んでいる青年」と呼ばれる現象が深刻化しています。これは、職歴を持つ若者が離職後、新たな求職活動も行わない状況を指します。今年に入り、毎月40万~50万人がこのカテゴリーに該当し、過去最多を記録しました。統計庁によると、その73.6%が就業経験者であり、職場への失望が求職断念に直結していることが示唆されています。中央日報が入手した関連報告書は、若者たちが労働市場を離れる原因と、なぜ戻ってこないのかを深層分析しており、この社会的な課題の背景に迫ります。

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「休んでいる青年」の増加:韓国労働市場の新たな課題

「会社に通うにもお金がかかる。1日に食費と交通費で2万ウォン(約2110円)ずつ使って月200万ウォン稼いでも話にならない。そのまま家で休んで節約しながら使う方がまし」。
「ストレスが耐えられる水準を超えている。期待に比べて劣悪な職場が本当に多い」。
これらは、韓国雇用労働部が大学情報メディアに依頼し、「職歴のある休んでいる青年」200人を対象に実施した深層アンケート調査で、若者たちが仕事を辞めた理由を語った生の声です。統計が示す通り、多くの若者が一度は社会に出たものの、職場の現実と理想のギャップに直面し、労働市場からの撤退を選んでいます。この「休んでいる青年」の増加は、単なる個人の選択にとどまらず、韓国社会全体の生産性や持続可能性にも影響を与える喫緊の課題となっています。

退職の背景:なぜ若者は職場を去るのか

若者たちが労働市場を離れる原因は多岐にわたりますが、報告書は特に給与水準、ワークライフバランス、そして仕事内容との適性不一致を主要な要因として挙げています。年齢層によってその優先順位に若干の違いが見られます。

年齢層別に見る不満

退職理由を尋ねた結果、30~34歳では「給料に対する不満」が33.7%と最も多く、次いで「ワークライフバランスの不足」(28.4%)、「業務・職務の適性不一致」(24.2%)が続きました。一方、19~29歳の場合には「業務・職務の適性不一致」が31.4%で1位となり、「給料への不満」(24.8%)、「ワークライフバランスと組織文化の問題」(各17.1%)が続きました。
報告書は、たとえ職歴があっても、就職前に十分な自己探求が行われないと「職歴のある休んでいる青年」になる可能性が高いと指摘。単純な雇用マッチングや失業手当の支援に留まらず、職歴のある青年に向けた進路再探索支援政策の必要性を強調しています。

単なる残業ではない、報酬と成長機会の欠如

報告書は、若者が退職を決心する理由が単純に「残業をしたくない」というものではないと分析しています。むしろ、成果と関係のない不必要な残業の多さや、手当が支払われないなど、努力に対する正当な報酬の欠如が根本的な不満の原因であると指摘しました。
具体的な自由回答でも、こうした不満が明確にあらわれています。
「成長できる業務が必要だ」「キャリアに役立つ仕事をしたい」「単純な繰り返し労働だけやらされた」「キャリアを積む機会がなければならない」といった、業務経験の質やキャリア形成の機会を求める声が多数を占めています。残業に関しても、「予測不可能な残業がなければ良かった」「あえて残業すべき理由がわからない」「働いた分だけ手当を払っていれば問題はなかった」といった意見が強く、労働時間そのものよりも、その「質」と「対価」が重視されていることが明らかになりました。

労働市場への回帰を阻む要因

一度労働市場から離れた若者たちが、なぜ再び仕事に就くことを躊躇するのか。その背景には、経済的な要因とキャリア形成に対する心理的な障壁が存在します。

大企業と中小企業の賃金格差

報告書は、大企業を除いた一般企業の賃金上昇率が低く、これが労働意欲を低下させていると指摘しました。特に、コロナ禍後に広がった大企業と中小企業の賃金格差は、若者たちに「相対的剥奪感」を強く抱かせています。統計庁によると、2月基準で大企業の平均所得は593万ウォン、中小企業は298万ウォンと、約2倍もの差があります。
ある青年は、「いくら努力してもあのように(裕福に)暮らせないという思いが人を無気力にさせる」と打ち明け、また別の青年は「10年20年が過ぎても月給は200万ウォンです。それならいっそ気楽にアルバイトでもしようという考えになる」と語っています。経済的な将来への不安が、安定した職に就くモチベーションを奪っているのです。

キャリア再構築への不安と超短期労働

経済的負担を感じる「休んでいる青年」は、正規の求職活動の代わりに、超短期労働を通じて生活費を賄う傾向にあります。ある青年は「アルバイト情報サイトやアプリを見て物流センターのようなところで日払いアルバイトをする」と答えています。
報告書は、政策的介入だけでなく、労働市場の柔軟性確保も必要だと強調します。若者が働きたくないわけではなく、進路を新たに変えるには「すでに手遅れ」という認識が、再就職への一歩を阻んでいると指摘。特に30歳を境に、こうした不安が大きくなることが明らかになりました。ある青年はインタビューで、「転職は普通はそれまでのキャリアを生かしたり活用することではないですか。しかし私は最初からキャリアをすべて消して新しく始めたいです。でもそのような機会はないです」と、キャリアを再構築することの難しさを吐露しています。

若者が求める「最低条件」:組織文化と基本的な労働環境

では、どのような仕事であれば、若者たちは再び労働市場に戻ってくるのでしょうか。報告書は、若者たちが希望する仕事の「最低条件」が、必ずしも高すぎないことを示しています。

現実的な期待と世代間ギャップ

希望年俸は年間2823万ウォン、通勤時間は63分以内、追加勤務は月平均3.14回水準と、現実的な範囲に収まっています。
しかし、組織文化の側面では、既存世代との明確なギャップがあらわれました。若者たちが退職を決めた理由(複数回答)として、最初に挙げられたのは「会食時の飲酒強要」でした。これに「週末勤務」「突発的な会食への出席強制」「昼休みの休息不可」「年次有給休暇の使用制限」「顔色をうかがっての退勤」などが続きます。これらは、従来の日本企業でも見られがちな問題であり、韓国のMZ世代もまた、時代に合わない組織文化に苦しんでいることがうかがえます。

「常識外」の労働環境

さらに、「まだ常識外の職場が多い」という回答も少なくありませんでした。暖房がまともに使われていなかったり、男女共用トイレで悪臭が激しく、お湯も出ないなど、基本的な労働環境さえ備わっていないために退職した経験を打ち明けた事例もありました。これは、労働条件以前の、人間らしい生活を送るための最低限の環境すら提供されていない職場が存在することを示しており、若者たちの職務満足度を大きく損ねる要因となっています。

課題解決への提言

報告書は、「既成世代が常識的だと考える雇用とMZ世代が考える常識的な雇用は明らかに差がある。この間隙を狭めていくことが、『休んでいる』問題を解決するカギになるだろう」と結論付けています。
韓国の労働部関係者は、「結局、基本を守る雇用が広がってこそ、青年が仕事を辞めたり休んだりすることに陥る現象を防げる」と述べています。そして、「多くの青年が初めて働き始める中小企業の労働条件を改善し、青年に職場と職務に対する多様な情報を提供できるようにしたい」と、今後の政策方向性を示唆しました。
韓国で増加する「休んでいる青年」は、単なる個人問題ではなく、賃金格差、不適切な組織文化、そしてキャリア形成への不安が複合的に絡み合った社会現象です。彼らが求めるのは、高すぎる条件ではなく、正当な評価、ワークライフバランスの尊重、そして人間らしい労働環境です。既存の雇用慣行と若者世代の価値観との間に存在するギャップを埋め、特に中小企業における労働条件の改善と、若者への適切な情報提供を進めることが、彼らが再び労働市場に活力を与えるための重要な鍵となるでしょう。


参考文献:

  • 韓国雇用労働部、大学情報メディアによる深層アンケート調査報告書 (中央日報を通じて入手)
  • 統計庁発表データ (大企業と中小企業の平均所得に関するデータ)
  • Yahoo!ニュース(中央日報日本語版)「『200万ウォン稼いでも話にならない…休んで節約する方がまし』韓国の青年が会社を辞めて戻ってこない理由」 (2025年9月2日掲載記事を参考に構成)