日本の米価高騰と農業政策の岐路:小泉進次郎氏の「減反維持」は消費者を救うか

近年、日本の米価は歴史的な高騰を見せており、消費者の家計を圧迫しています。2025年産米は56万トンの増産が予測される一方で、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、JAが農家に対して60kgあたり3万円という異例の概算金を提示したことを指摘。これは、政府備蓄米の在庫枯渇を理由に、さらに多量の米を政府に買い取らせることを織り込んだ動きであり、「コメ・バブル」と呼べるような価格上昇が今後も続くだろうと警鐘を鳴らしています。この米価高騰の背景には、政府の農業政策、特に小泉進次郎元農林水産大臣の姿勢変化が大きく影響していると見られます。

「消費者の味方」はどこへ:小泉氏の姿勢変化とその背景

小泉元農林水産大臣は、かつて政府備蓄米の随意契約による放出について「ジャブジャブにしてコメの値段を下げる」と、消費者に寄り添う姿勢を示していました。しかし、2025年6月5日のファミリーマートにおける販売状況視察後、8月31日のNHK日曜討論では、「農家の方にとっては、あいつふざけんなと、何大臣だと思ったと思います」と述べ、生産者側の反発を考慮する発言に転じました。この変化は、農林水産省の事務方や自民党農林族議員との接触を通じて、農業サイドの意見を無視できないという認識に変わったことを示唆しています。

小泉進次郎農林水産相が政府備蓄米の販売状況を視察、米価高騰への対応小泉進次郎農林水産相が政府備蓄米の販売状況を視察、米価高騰への対応

「需要に見合った生産」という農政トライアングルの主張を受け入れ、「減反維持」に舵を切ったのもその一つです。農家にとって米価は高ければ高いほど良く、備蓄米の放出による米価下落には当然反対します。一方で、消費者としては、昨年初めには精米5キログラムあたり2000円で購入できていたものが、現在では4000円を超える状況です。小泉大臣は「2000円でないと買えないという消費者がいるから備蓄米を放出した」と主張しましたが、備蓄米が尽きた後も米価を2000円まで下げる具体的な策を講じなければ、その言葉は空虚なものとなってしまいます。生産者と消費者双方が納得する「適正な価格」は存在せず、この根深い対立構造をどう解決するかが、日本の農業政策の大きな課題です。

農業振興と安価なコメ供給の両立:「減反廃止」の提言

現在の米価高騰と農業政策の課題を解決するためには、「減反廃止」が有効な選択肢として考えられます。減反を廃止し、生産者に直接支払いを導入することで、生産者の所得を確保しつつ、消費者に安価な米を供給することが可能になります。小泉大臣は、民主党の戸別所得補償政策が農業の基盤整備を含む農業土木予算を削減したことを「いま生産性向上のために基盤整備が必要な中で適切ではない」と否定しましたが、減反廃止による直接支払いは、戸別所得補償が抱えていた「バラマキ」や「高米価維持」の問題とは異なります。

減反廃止によって浮く補助金3500億円を財源に充てれば、農業土木予算を削ることなく、生産者への直接支払いと安価な米供給を実現できる可能性があります。この財源を適切に活用することで、消費者に安価な米を供給するだけでなく、農業の基盤整備を推進し、長期的な生産性向上にも寄与できるでしょう。

「米価は安すぎた」という主張の検証:零細農家の実態

番組では、零細な農家と大規模な農家の双方が「これまでの米価は安すぎた」と主張していました。しかし、この主張は本当に正しいのでしょうか。これまで農林水産省もJA農協も、卸売業者に販売する価格が玄米60キログラムあたり1万5000円(概算金では1万2000円)になるよう意識して減反政策を実施してきました。

2023年のデータを見ると、1ヘクタール未満の農家はコストが高く、常に赤字です。特に0.5ヘクタール未満の零細農家では、労働費を除いた物財費だけで60キログラムあたり1万6198円、0.5~1ヘクタールの農家でも1万3133円かかっており、概算金1万2000円では赤字となります。しかし、彼らがコメ農業を続けてきたのは、町で市販されているコメを買うよりも自分で作った方が安上がりになるためです。この実態を踏まえると、「米価が安すぎた」という一言で片付けることはできず、零細農家の抱える構造的な問題を深く理解し、それに対応する政策が必要です。

結論

日本の米価高騰は、政府の備蓄米不足、JAの概算金政策、そして小泉元農林水産大臣の姿勢変化が複雑に絡み合った結果と言えます。現状の「減反維持」政策では、消費者の負担軽減と農業振興の両立は困難です。米価を適正に保ち、消費者の購買力を守りながら、生産者の所得を安定させるためには、「減反廃止」と「生産者への直接支払い」を組み合わせた抜本的な改革が不可欠です。この政策転換は、財源の問題をクリアし、日本の食料安全保障と持続可能な農業の未来を築くための鍵となるでしょう。

参考文献