北朝鮮の金正恩総書記が中国を訪問する際、専用機ではなく特別列車「太陽号」を利用したことが世界的に注目されている。この移動手段の選択にはどのような背景があるのか。脱北者である太永浩(テ・ヨンホ)元民主平和統一事務局長の分析を基に、その具体的な理由と北朝鮮の外交戦略を探る。
専用機「チャムメ1号」の老朽化と国際的イメージ
太永浩氏の指摘によると、金正恩総書記が過去に利用したことのある専用機「チャムメ(オオタカ)1号」は、1981年にロシアで製造された古い機種であり、その老朽化は深刻である。現在、このタイプの航空機を旅客用として運用している航空会社は世界的にもほとんど見当たらず、例えばベラルーシ航空会社が貨物専用として使用しているのが実情である。
このような古い機体で金総書記が多国間会議の場に臨めば、「1980年代に留まる北朝鮮」というネガティブな国際的イメージが報じられることを避けたかったという意図があったとされる。太氏は、金総書記自身もこのイメージ戦略の重要性を認識していると分析している。
金正恩総書記が中国訪問時に専用列車で北京に到着する様子
「太陽号」がもたらす安全性と指導者像の演出
専用列車「太陽号」は、金総書記の移動手段として極めて高い「安定性」を提供している。この列車は防弾仕様が施され、最高レベルの安全性が確保されているという。内部空間はノートPCやスマートフォンといった、指導者が業務を遂行するために必要なあらゆる最新設備が完備されており、移動中でも執務を継続できる環境が整っている。
さらに、列車内での業務に集中する指導者の姿勢を国内外に示す狙いも大きい。実際に公開された写真には、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相や金成男(キム・ソンナム)国際部長が金総書記に文書を置いて業務報告を行う様子が捉えられており、「外国訪問中であっても業務を一時も中断しない」という勤勉な指導者イメージを強調する演出が図られている。
結論
金正恩総書記が中国訪問において専用列車「太陽号」を選択した背景には、専用機「チャムメ1号」の老朽化による実用性と国際的イメージへの配慮、最高指導者の身の安全を確保する目的、そして移動中も絶えず執務に励む勤勉な指導者像を国内外に示すという、複合的かつ周到な政治的・戦略的要因が存在する。この選択は、北朝鮮が国際社会において自国のイメージをいかにコントロールしようとしているかの一端を物語っている。
参考文献: