映画『8番出口』津波描写を巡る「後出し注意喚起」が物議、制作側の配慮に疑問の声

「嵐」の二宮和也が主演を務める映画『8番出口』が8月29日から全国公開され、人気ゲームの実写化として大きな注目を集めています。しかし、その内容の一部、特に「津波描写」に関する制作側の対応が公開後に物議を醸し、SNS上では疑問の声が多数寄せられています。

映画『8番出口』公開と初期の反響

累計販売本数180万本を超える人気ホラーゲーム『8番出口』を実写化した本作は、無限にループする地下通路に閉じ込められた主人公が異変を見つけ出し、「8番出口」からの脱出を目指すというユニークな脱出スリラーです。主演の二宮和也に加え、小松菜奈、河内大和といった実力派俳優陣が名を連ねており、公開初日から3日間で観客動員数67万人、興行収入は9億円を突破するなど、早くもヒット作としての期待が高まっています。

映画『8番出口』で主演を務める二宮和也。津波描写を巡る議論の中心に。映画『8番出口』で主演を務める二宮和也。津波描写を巡る議論の中心に。

「津波描写」を巡る物議と「後出し注意喚起」

問題となったのは、映画公開から3日後の9月1日、同作の公式X(旧Twitter)アカウントが投稿した《映画『8番出口』ご鑑賞の皆様へ》と題した注意喚起でした。投稿には、「本映画は、無限に続く地下通路を舞台としていますが、その中で津波など自然災害を想起させるシーンがございます。ご鑑賞にあたりましては、予めご注意いただきますようお願い申しあげます」と記載され、作中の「津波描写」に初めて言及されました。

この「津波描写」は物語終盤、地下通路が濁流に飲み込まれるシーンで現れます。原作ゲームにも「異変」の一つとして登場しますが、原作では赤色の水だったのに対し、映画では実際の濁流を思わせる土色で表現されていました。2011年の東日本大震災以降、地震や津波といった自然災害を描写する作品では、事前にその内容をアナウンスすることが一般的になっていますが、『8番出口』では公開前の事前告知が一切ありませんでした。

映画『8番出口』公式Xで公開後に投稿された津波描写に関する注意喚起。映画『8番出口』公式Xで公開後に投稿された津波描写に関する注意喚起。

SNSでの批判の声と興行収入への影響

公開後の「後出し注意喚起」に対して、X上では厳しい批判の声が相次ぎました。
「8番出口の津波描写、マジの津波(ゴミ混じりの茶色の濁流にのまれ溺れる)だったのに注意書き無しなの有り得なすぎ」
「初動3日間を意識してアナウンスしなかったんでしょうがイコール卑怯なやり口とも取れます。知っていれば観には行きませんでした」
「これ公開前に出すべきだったよ〜津波の経験がない私ですらちょっと怖かったもん」
「もっと早く教えてくれてたら正直観なかった、3日過ぎてからアナウンスするのは計算なんだろうな」
といった意見が見受けられ、制作サイドの姿勢に疑問を呈する声が多数を占めました。

東日本大震災を経験した人々にとって、地震や津波の映像は当時の記憶をフラッシュバックさせ、深刻な心的影響を与える可能性があります。映画が公開直後の週末にどれだけ観客を動員できるかが興行収入の鍵を握るため、事前に津波描写について告知しなかったのは、観客動員への影響を懸念したためではないかとの見方も出ています。

川村元気監督の過去作と「配慮」の比較

本作の監督・脚本を手がけたのは、映画監督の川村元気氏です。2018年の『億男』、2020年の『ラストレター』、2023年の『怪物』など、数々のヒット作をプロデュースしてきた川村氏は、過去にも作品の中で自然災害の描写を行っています。

例えば、川村氏がプロデュースを担当した新海誠監督の2022年の映画『すずめの戸締まり』では、作中に地震の描写がありましたが、公開の約1カ月前に公式Xでアナウンスを行い、観客への細やかな配慮がSNSで高く評価されました。この過去の経験があるからこそ、『8番出口』でも同様の「事前アナウンス」を行うべきだったのではないかという声が上がっています。

今後の作品に求められる「配慮」の重要性

東日本大震災から14年が経過しましたが、日本社会における自然災害への感受性は依然として高い水準にあります。映画やドラマなどのエンターテインメント作品において、これらの描写を取り扱う際には、制作側がより一層の配慮と透明性を持って情報公開を行うことが強く求められます。特に、視聴者の心理に与える影響を考慮し、事前に具体的な内容を告知することで、観客が安心して作品を選べる環境を整えることが、今後の日本のエンターテインメント業界にとって極めて重要であると言えるでしょう。

参考文献