岡山県津山市に拠点を置く創業57年の老舗縫製工場、笏本縫製は、かつて多額の借金に苦しみ、職人への給与支払いも困難な状況に陥っていました。そんな逆境の中、先代社長である母の猛反対を押し切って入社した笏本達宏氏は、下請け中心だった工場で自社ブランドネクタイ「SHAKUNONE(笏の音)」を立ち上げます。初年度はわずか30本の販売に留まったこのネクタイが、いかにして工場の危機を救い、再生へと導いたのか、その挑戦の物語を紐解きます。
笏本縫製の挑戦:下請けから自社ブランドへの転換
笏本達宏氏は、1968年創業の笏本縫製の3代目です。2008年、美容師の職を辞し、「私の代で潰すから、お願いだから継がないで」という母の言葉に反して家業を継ぎました。そして2015年、下請けが主であったネクタイ工場で、自身の夢である自社ブランド「SHAKUNONE」を立ち上げるという大きな決断を下します。
現代のアパレル業界は、大量生産によるコストダウンを追求し、多くの生産拠点が物価の安い海外へと移転。その結果、日本国内で流通する衣料品のうち、国産品の割合はわずか1.4%という厳しい現実が突きつけられています。このような状況下で、笏本縫製は「いいものさえ作っていれば、誰かが見つけてくれて、必ず売れる」という強い信念を胸に、完全なる日本製ネクタイの販売に踏み切ったのです。
日本の職人技が息づく「SHAKUNONE」のネクタイ
「SHAKUNONE」のネクタイは、機械化が進む現代においても、熟練の職人の手仕事にこだわり抜いています。全工程の自動化も可能ではありますが、昔ながらの低速織機を使い、細い糸を時間をかけてゆっくりと力強く織り上げることでしか表現できない、独自の風合いと美しさを追求しています。
生地には、柔らかな質感と深みのある光沢が特徴の京都の西陣織シルク生地を採用。高密度で織り上げられた生地は、唯一無二の存在感を放ち、身につける人に上質な印象を与えます。祖母の代から約50年間、有名ブランドやスポーツの日本代表のネクタイも手掛けてきた笏本縫製の最高品質の技術と経験が、この自社ブランド「SHAKUNONE」に惜しみなく注ぎ込まれています。
笏本縫製社長の笏本達宏氏、逆境を乗り越え自社ブランド「SHAKUNONE」で再建に挑む
再生への道:幻想と現実の狭間で
半世紀にわたり培われた伝統と技術を結集し、「いいものを作れば売れる」という純粋な思いから始まった「SHAKUNONE」ブランド。しかし、販売開始初年度はわずか30本という厳しい現実が、その信念が単なる「幻想」に過ぎないことを突きつけます。この試練を笏本縫製と笏本達宏氏はいかに乗り越え、工場の未来を切り開いていったのでしょうか。この逆境からの再生物語は、日本のものづくりが直面する課題と可能性を浮き彫りにしています。
参考資料
- President Online (Yahoo!ニュース経由): 「多額の借金を抱えた町工場がなぜ「自社ブランドのネクタイ」でV字回復できたのか」