来月11日投開票の台湾総統選が告示された。台湾が成熟した民主主義を守れるかどうかの正念場であり、東アジアの平和と安定に直接かかわる重要な選挙である。
台湾への統一圧力を強める中国が、総統選に介入することへの懸念が強まっている。台湾の民意が公正に反映されるよう日本と国際社会は総統選の在り方と行方を注視する必要がある。
再選を目指す蔡英文総統と対抗馬の野党・国民党の韓国瑜高雄市長との争いは、蔡氏のリードで推移している。蔡氏の追い風となったのは、6月以降の香港情勢の混乱である。
香港の「一国二制度」の無力化を図る中国に抗議する若者らを警官隊が弾圧する光景に、「今日の香港は明日の台湾」との危機感が広がっている。
昨年11月の統一地方選で蔡政権の与党・民主進歩党が大敗した。今年1月、中国の習近平国家主席が演説で「一国二制度」を台湾に迫ったことに蔡氏は断固拒否の態度を示した。中国の香港介入を不安視する多くの人が、蔡氏の毅然(きぜん)とした対中姿勢を評価する。
一時は「韓流」と称されるほどの人気を博した韓氏は、香港情勢に距離を置くなど、中国に融和的な言動がマイナスに響いている。韓氏は対中国政策を明確に提示し、台湾の進路を堂々と論じてほしい。
選挙戦をめぐり懸念されているのは中国の動きだ。蔡氏側は「中国の選挙介入はここ1日、2日の話ではない」と、警戒を強めている。オーストラリアに亡命申請した中国人男性が、香港や台湾での世論工作を告白したとする豪州メディアの報道も出ている。
1996年の台湾初の総統直接選で、中国はミサイルを台湾近海に発射する威嚇を行った。露骨な軍事的圧力に加えて、サイバー部隊による巧妙な選挙介入を仕掛ける可能性も十分にある。
ペンス米副大統領は10月末の演説で「台湾の民主主義は全ての中国人にとって望ましい進路だ」と語った。民主主義を踏みにじる選挙介入に対して、台湾と国際社会は警戒しなければならない。
地政学的要衝である台湾の危機は日本の危機に直結する。日台は自由や民主主義、法の支配などの価値観を共有している。総統選が安全保障面を含む日台協力関係の発展に道を開くよう期待する。