静岡県伊東市の田久保眞紀市長に持ち上がった学歴詐称疑惑を巡り、市議会は1日、市長に対する不信任決議を全会一致で可決しました。これを受け、田久保市長は本日(10日)、市議会を解散する異例の措置を取りました。この解散により、40日以内に市議会議員選挙が実施されます。選挙後、新たな市議会で議員の3分の2以上の出席のもと、過半数の同意により再度不信任案が議決された場合、田久保市長は失職することになります。市長が失職を避けるためには、自身を支持する候補者を次期市議選で多数当選させる必要があります。
一方、田久保市長に対しては、公職選挙法違反や地方自治法違反の容疑で既に刑事告発が行われており、今後、その刑事責任が問われる可能性も浮上しています。現時点で、田久保市長の一連の行為が具体的にどのような犯罪に該当しうるのか、そしてそれが市長の法的地位にどのような影響を及ぼすと想定されるのかについて、専門家の見解を交えながら深く掘り下げていきます。
伊東市の田久保眞紀市長。学歴詐称疑惑と議会解散で揺れる市政の中心人物。
不信任決議と議会解散の背景
伊東市議会が全会一致で不信任決議を可決した背景には、田久保市長が自身の最終学歴を「東洋大学法学部卒業」と公表していたにもかかわらず、実際には卒業しておらず「除籍」されていた事実が判明したことがあります。この学歴詐称疑惑は、市民の間で大きな問題となり、市政に対する信頼を大きく揺るがす事態に発展しました。市長による議会解散は、この不信任決議に対抗する最終手段であり、市民の信を改めて問う形となりますが、同時に市長の政治生命をかけた大きな賭けとも言えます。次期市議選の結果は、市長の去就だけでなく、伊東市政の今後を大きく左右するでしょう。
公職選挙法における「虚偽事項公表罪」の疑い
田久保市長の学歴詐称問題に関しては、公職選挙法第235条第1項に定められている「虚偽事項公表罪」の被疑事実で刑事告発がなされています。元東京都国分寺市議会議員で、地方自治法や公職選挙法に詳しい三葛弁護士は、この罪が「故意犯」である点を指摘し、有罪・無罪を分ける鍵は、田久保市長に学歴を詐称する認識があったか否かにあると説明します。
三葛弁護士は、「詐称の故意がなかった、つまり卒業したと思い込んでいた場合には、同罪の成立は否定される可能性があります」と述べた上で、田久保市長が7月2日の記者会見で除籍の事実を認めつつも、卒業していたとの認識は「勘違い」だったと弁明したことを、故意の否定を意図したものと分析しています。
しかしながら、三葛弁護士は、「そもそも一般的に、自分が大学を卒業したか否かの認識を誤ることは非常に考えにくい」と疑問を呈します。さらに、田久保市長自身が記者会見で「不真面目な学生で(大学に)いつまで通っていたというような通学状況ではなかった」と発言している点を挙げ、「少なくとも、大学の卒業に必要な単位を取得していなかったかもしれないという認識は十分あり得たことを意味します。単位が足りない状態では卒業できませんので、これ自体が『卒業していないこと』の認識、つまり、学歴詐称の『故意』があったことを示しています」と強調しました。
メルカリで高値で取引される、学歴記載が修正される前の伊東市広報誌。田久保市長の学歴詐称疑惑が市民の関心を集めていることを示す。
また、近年、国会議員候補者の学歴詐称が問題となった経緯から、立候補の際にメディアから卒業証明書類の提示を求められることがあり、その時点で自身の学歴に誤りがあれば気づくはずだと指摘しています。
三葛弁護士は、それでもなお田久保市長が「卒業した」と誤信するには、東洋大学側から誤解を招くような何らかのアクションがあったことが必要だとの見解を示しました。しかし、「東洋大学は、除籍者に卒業証書は授与しないと公式にコメントしており、かつ、田久保市長だけ別異に扱う理由は考えられません。東洋大学から誤解を生じさせるようなアクションはなかったのでしょう」と付け加え、「したがって、田久保市長がいかに故意を否定しても、客観的事情からはかなり疑わしいと考えます」と結論づけています。
もし田久保市長が虚偽事項公表罪で有罪となった場合、公職選挙法第251条に基づき当選が無効となるだけでなく、同法第252条により公民権停止という重い処分が科せられることになります。
まとめと今後の展望
伊東市の田久保眞紀市長を巡る学歴詐称疑惑とそれに伴う議会解散は、地方政治における倫理と信頼のあり方を改めて問う事態となりました。公職選挙法における虚偽事項公表罪の適用が焦点となる中、市長の「勘違い」という弁明の信憑性が問われています。専門家は、客観的状況から故意の可能性を強く示唆しており、今後の捜査と司法判断が注目されます。
有罪となれば、市長職の失職だけでなく、公民権停止という厳しい法的制裁が待っています。次期市議選の結果と刑事告発の行方が、田久保市長の政治生命、ひいては伊東市政の未来を決定づけることとなるでしょう。