不動産調査会社東京カンテイが発表した最新データによると、東京都心6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)における70㎡の中古マンション平均希望売り出し価格が、2023年8月に前月比2.0%上昇し、過去最高となる1億7030万円を記録しました。この記録的な高騰は、日本の不動産市場、特に都心部のマンション価格における新たなフェーズを明確に示しており、国内外から大きな注目を集めています。
記録的な価格上昇の現状と専門家の見解
東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の髙橋雅之氏は、「値上がりは予想していたものの、これほど急ピッチで上がるのは予想外でした」と述べ、現状のマンション価格高騰の勢いを強調しています。この背景には、アメリカと日本における政策金利の据え置きと、最近のアメリカの利下げにも関わらず続く円安傾向が大きく影響していると指摘されています。海外の投資家から見れば、円安によって日本のマンションは相対的に「割安感」が増し、購買意欲を刺激しています。結果として、日本の都心マンションは高額所得者によるマネーゲームの対象と化しているのが現状です。
髙橋氏によれば、10年前に坪500万円で新築分譲された物件が、現在では中古市場で坪1500万円を超える価格で取引されるケースも珍しくありません。今後、都心部では1住戸あたり3億円や4億円の値がつく中古マンションが登場してもおかしくないと予測されています。新築マンション市場も同様に「数億ション」と呼ばれる高額物件が主流となりつつあり、今後の方針次第ではありますが、来年前半までは値上がり基調が続く可能性が高いと見られています。
ターゲット層の変遷と「空室問題」の深刻化
このような都心部の不動産市場でターゲットとされているのは、主に海外の投資家、国内の富裕層、そして世帯収入が2000万~3000万円の「スーパーパワーカップル」です。世帯収入1000万円以下のマス層は、もはや都心部の高額マンション市場では相手にされていないのが実情です。
しかし、この価格高騰は新たな社会問題も引き起こしています。多くのマンションオーナーは、賃貸に出すことを前提とせず、売却したいタイミングですぐに市場に出せるよう「空室」のまま維持しているケースが増えています。実際、千代田区が実施した実地調査では、一部の高級分譲マンションにおいて空室率が50%を超えるという驚くべきデータが明らかになりました。
東京都中央区の巨大マンション群に海外からの不動産投資が集中し、高騰を続ける都心マンション市場
入居者がいれば住民税収入が増え、経済活動が活発化し、街全体の活性化に繋がります。しかし、高額なマンションが空室のままであれば、都市の賑わいが失われ「都市の空洞化」を招く恐れがあります。
自治体による規制の動きと課題
この深刻な問題に対し、一部の自治体は対策に乗り出しています。千代田区は、このような状況を看過できないとして「投機的マンション購入の制限」を打ち出しました。また、神戸市でもタワーマンションの空室所有者に対して「空室税」の導入を検討し始めています。
しかし、これらの地方自治体による個別の対策だけでは、現在の過熱したマンション価格高騰に効果的に歯止めをかけることは難しいというのが専門家の見解です。真に実効性のある規制を導入するためには、東京都や国といったより広範なレベルでの政策主導が不可欠であると指摘されています。
まとめ
東京都心の中古マンション価格は記録的な高騰を続け、その背景には円安と海外マネーの流入があります。これにより、都心マンションは一部の富裕層や投資家の投機対象となり、結果として「空室問題」や「都市の空洞化」といった社会問題が顕在化しています。千代田区や神戸市のような地方自治体が独自の規制や課税を検討する動きはありますが、この過熱感を抑制し、より健全な不動産市場を構築するためには、国や東京都レベルでの包括的かつ強力な不動産規制の導入が喫緊の課題となっています。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 「こんなに急ピッチで上がるのは予想外でした」都心マンション価格1億7030万円!高騰を招いた“海外マネー”の実態と空室率50%超の危うい街(FRIDAY)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0ca7c9e42835674b8cd416b5709cebeb6971cb2c