山上徹也被告の妹が涙の証言:安倍元首相銃撃事件、家族が背負った「旧統一教会」の影

2022年に奈良市で発生した安倍晋三元首相の銃撃死亡事件。殺人罪などで起訴された山上徹也被告(45)の公判が奈良地裁で進められており、特に11月13日の第7回公判からは弁護側の証人尋問が開始され、被告人の犯行動機の解明に高い関心が寄せられています。今回の公判では、山上被告の妹であるAさんが涙ながらに証言し、兄の自死とその背景にある旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係が改めて浮き彫りとなりました。

裁判の進捗と被告人の動機

山上被告は逮捕後の取り調べにおいて、「母親が旧統一教会に傾倒し、多額の借金を重ねて家庭が崩壊した」「教団とつながりがあると考えた安倍氏を狙った」と供述していたと報じられています。今回の弁護側証人尋問は、これらの供述の根底にある被告人の心情や家族の歴史を深く掘り下げるものとして注目されています。山上被告の妹Aさんの証言は、被告人の内面に迫る重要な手がかりを提供しました。

安倍元首相銃撃事件で殺人罪などに問われている山上徹也被告安倍元首相銃撃事件で殺人罪などに問われている山上徹也被告

妹が語る「兄の自死」と山上被告の慟哭

11月19日に行われたAさんへの証人尋問では、2015年に山上被告の長兄が自死した際の衝撃的な出来事が語られました。弁護人が長兄の死に対する山上被告の様子を尋ねると、Aさんは次のように証言しました。「長兄が亡くなった際、私と母、そして徹也は警察に呼ばれました。数時間待った後、警察官から遺品が手渡されました。長兄が着ていた服とリュックを見た徹也は、服を取り出し『血で真っ赤じゃないか』と叫んで慟哭しました。普段、感情をあまり表に出さない徹也が、祖父が亡くなった時以来、これほどまでに泣き崩れる姿を見たのは初めてでした。」

通夜と葬式の間も、山上被告は遺体のそばを一晩中離れず、悔しそうに泣き続けていたといいます。Aさんは、長兄が亡くなる前に電気代を貸してほしいと頼んでいたこと、そして母親が長兄の障害年金の手続きを忘れ、今月の受給がないと話していたことを涙ながらに語りました。母親は普段からAさんにお金を無心しており、「これは神様がくれたお金だから返さない」と主張していたため、Aさんはその要求を無視していたと告白。「長兄が死んでしまったとき、もしお金を貸していれば……」と後悔の念を明かしました。

旧統一教会による「家庭崩壊」の実態

長兄の自死後、山上被告とAさんの間には疎遠な時期がありました。Aさん自身も実家を出ましたが、飼っていた猫が亡くなった際に被告人に連絡を取ると、被告人は「一緒に猫を弔ってくれた」とAさんは語っています。このエピソードは、普段感情を抑制している山上被告の中にも、深い人間的な感情が存在することを示唆しています。しかし、家族を深く苦しめた旧統一教会への恨みが被告人の心に募っていったことは、先の自死した兄に対する慟哭の言葉からも明らかです。多額の献金と借金によって、山上家の家庭は事実上崩壊状態にあり、これが被告人の犯行動機へと繋がっていく重要な背景となりました。

事件に至るまでの道のり

山上被告は弁護側の関係者に対し、長兄の自死が旧統一教会への恨みを募らせる決定的なきっかけとなったと明かしています。家庭の経済的破綻と精神的な苦痛が長期間にわたり家族を蝕み、最終的に2022年の事件へと発展しました。妹Aさんの証言は、山上被告が抱える深い絶望感と、その行動の根源にある複雑な家族関係、そして旧統一教会が与えた影響の大きさを法廷に明らかにしました。

この公判は、単なる刑事事件の審理に留まらず、特定の宗教団体と個人の家庭崩壊、そしてそれが社会に与える影響という、より広範な問題提起を含んでいると言えるでしょう。山上被告の犯行動機の全容解明に向けた審理は、今後も継続される見込みです。