東京・千代田区の樋口高顕区長が、不動産業界に対し異例の要請を出したのは今年7月のことでした。一部の新築マンションについて、原則5年間の転売禁止と、同一建物における同一名義者による複数物件の購入禁止を求めたこの動きは、不動産価格が高騰する都心、特に千代田区のトップからの発言として大きな注目を集めました。
千代田区のマンション投機抑制策を要請した樋口高顕区長
不動産協会からのデータ要求と見解
しかし、その後の展開についてはあまり知られていません。不動産協会によると、区長の要請は事前の知らされず、ネットニュースで内容を知ったという経緯がありました。協会は区の担当者から説明を受けたものの、具体的な「投機を目的としたマンション取引」のデータや根拠の提示を求めましたが、現在も明確な回答は得られていない状況です。協会は9月19日の記者懇談会で、投機的な取引は限定的であり、不動産価格高騰の主な原因は土地代や建築費の高騰にあるとの見解を示しつつも、投機的な短期転売自体は好ましくないとの立場を表明しました。
デベロッパーが見る千代田区の不動産実態
デベロッパーの担当者は、樋口区長の要請は実態を反映していないと指摘します。千代田区は新規マンションの供給が非常に少ない地域であり、購入者の多くは企業のオーナー経営者や地方病院の理事長など、出張での利用を目的としているケースが目立ちます。一般層が住宅としてマンション購入を検討する際、世田谷や中野といった住宅街を選ぶのが一般的で、千代田区は選ばれにくいという見方です。実際、不動産経済研究所の調査によると、2024年度に東京23区で発売されたマンション8272戸に対し、千代田区内で完成した中規模以上の分譲マンションは「パークリュクス神田多町」と「ザ・パークハウスグラン三番町26」の2棟のみで、合わせて136戸と全体のわずか1.6%に過ぎません。
千代田区の「最初の一手」への期待と課題
これに対し、千代田区広報広聴課は「今回の要請は多くの方の共感を得られたと感じています。誰かが動き出さなければならない中で、千代田区が最初の一手を打ったと考えています」とコメントしています。「異例の要請」が単なる一時的なパフォーマンスに終わらず、実効性のある政策へと繋がるかどうかが今後の焦点となるでしょう。
参考文献
- 新潮社「週刊新潮」2025年10月23日号 掲載記事 (https://www.dailyshincho.jp/article/2025/01240540/?photo=2)
- Yahoo!ニュース 掲載記事 (https://news.yahoo.co.jp/articles/8f3138a11f7bf9928c324c90c0fcb2c707fdeed6)





