「1日1万歩」はもう古い?科学が導き出す健康のための「理想の歩数」とは

運動が健康に不可欠であることは周知の事実ですが、その「質」と「量」において最も効果的な方法は常に議論の的となっています。多忙な現代人にとって、かつての常識とされた「1日1万歩」という目標は、時に非現実的で達成困難に感じられるかもしれません。しかし、ご安心ください。CNNやTIME誌をはじめとする海外主要メディアで大きく報じられた最新の研究により、「理想の歩数」は1万歩よりもはるかに少ない目標で十分な健康効果が得られることが科学的に証明されました。本記事では、ハーバード大学医学講師の濱谷陸太氏が上梓した『予防医療の医師が教える 最小の努力で最大の効果を得る食事学』の知見も踏まえ、最小限の労力で最大限の健康リターンを得るための「科学的な最適解」を詳しく解説します。

高齢者にとってのウォーキングの重要性

様々な運動形態がある中で、特に高齢の方にとってウォーキングは最も取り入れやすく、好まれる運動様式の一つです。ゆっくりとしたペースのウォーキングであっても、心肺への大きな負荷をかけずに、その明確な健康効果を享受できます。これまでにも歩数と健康の関連性に関する多数の論文が発表されており、それらを統合した報告では、1日あたり約7500歩までは歩数が多いほど死亡リスクや心臓病のリスクが低下することが示されています (※1)。

「理想の歩数」を目指してウォーキングする人のイメージ「理想の歩数」を目指してウォーキングする人のイメージ

歩数の「質」を問う最新研究

これまでの研究は「どれだけ歩くか」に焦点を当てることが多かった一方で、「どのように歩くのが最も効果的か」を具体的に調査した研究は稀でした。例えば、「週に1~2回、時間を決めて集中的にウォーキングを行う」のと、「毎日、意識的に歩数を増やす」のとでは、どちらがより健康に寄与するのでしょうか。この疑問に答えるべく、濱谷氏の研究チームは高齢女性のデータを活用した大規模研究を実施しました (※2)。

この研究では、Women’s Health Studyという大規模コホートのデータが用いられました。心臓病の既往歴がない高齢女性1万3547名を対象に、ウェアラブルデバイスであるアクチグラフを1週間にわたり装着してもらい、運動時間と歩数を精密に測定。その後、参加者らを11年間追跡し、その間の死亡および心臓病の発症状況が詳細に検証されました。

科学が示す「最適な歩数」と健康効果

研究の結果、驚くべき事実が明らかになりました。従来の「1日1万歩」という目標が必ずしも絶対的なものではなく、より少ない歩数でも有意な健康効果が得られることが示されたのです。これは、多忙な現代人にとって、より現実的で持続可能な健康習慣のヒントとなるでしょう。歩数の目標設定において、量だけでなく、その歩き方や継続性といった「質」の側面も考慮することが重要であると示唆されました。

結論

日々の生活にウォーキングを取り入れることは、健康維持に非常に有効な手段です。しかし、その目標設定は必ずしも厳格な「1日1万歩」に縛られる必要はありません。最新の科学研究は、より柔軟で現実的な歩数目標でも、死亡リスクや心臓病リスクの低減といった大きな健康上のメリットが得られることを示しています。この科学的な知見に基づき、ご自身のライフスタイルに合わせた「最適な歩数」を見つけ、無理なく健康的な毎日を送ることが何よりも重要です。

参考文献

  • (※1) 歩数と健康の関連性に関するメタアナリシス論文
  • (※2) 濱谷陸太氏らによるWomen’s Health Studyデータを用いた高齢女性の運動様式と健康アウトカムに関する研究論文