乃木坂46の3期生である久保史緒里がグループを卒業しました。彼女は1期生の生田絵梨花の後に続き、ここ数年、乃木坂46の歌唱の中心を担う存在でした。ライブや歌番組において、その透明感あふれる歌声は、グループのサウンドの要として響き渡っていました。シングルごとにセンターが変わる乃木坂46ですが、歌唱力でグループを支えるメンバーが常にその土台を築いてきた側面もあります。久保の卒業は、この重要な役割を誰が引き継ぐのかという点で、今後の乃木坂46を考察する上で重要なポイントとなるでしょう。本稿では、近年歌唱面で存在感を増している4期生の林瑠奈、5期生の中西アルノ、6期生の海邉朱莉に加え、センター経験を重ねる賀喜遥香、個性的な声で注目される奥田いろはの現状を整理し、次世代の歌姫がどのように現れてくるのかを深く掘り下げていきます。
久保史緒里が担った歌唱面での役割と貢献
久保史緒里の歌声の最大の魅力は、その圧倒的な透明感にありました。柔らかく澄んだ歌声は、乃木坂46がデビュー当初から大切にしてきた「清涼感」や「儚さ」といったグループイメージと自然に重なり、バラードの切ないフレーズからポップな楽曲の真っ直ぐな歌い出しまで、聴く者を瞬時に楽曲の世界へと引き込む力を持っていました。しかし、久保は単にそのイメージに留まることなく、表現の幅を広げてきました。舞台でのポエトリーラップへの挑戦や、朗読と歌の間のような独特の表現を磨くなど、「声でどこまで表現できるか」を常に探求してきたタイプです。アイドルとしての歌唱力に限定されない、多面的な表現者であろうとするその姿勢は、乃木坂46の音楽性を特定の型に閉じ込めないための、目に見えない原動力ともなっていました。
また、コーラスやハモリにおける貢献も特筆すべき点です。副旋律や、ふとした瞬間に耳に残るハーモニーラインなど、目立ちすぎないものの、楽曲に深みを与える重要なパートを、久保は安定したピッチと丁寧なニュアンスで支え続けました。彼女の声が音の基準として鳴り響くからこそ、他のメンバーは安心して感情表現に集中できる場面も多かったことでしょう。高音域でのロングトーンや、楽曲の印象を決定づける歌い出しなど、決して外すことのできない部分を任せられる安心感も含め、久保はリードボーカルとコーラスリーダーの役割を一人で兼ね備える稀有な存在だったと言えます。
だからこそ、これまで「久保に任せておけば成立する」と当然のように思われてきた部分を、今後は改めて構築していく必要があります。グループの「歌」を支える人材をどのように配置し、誰が「歌」をリードしていくのか――これは乃木坂46の未来を左右する課題となるでしょう。
新時代の歌唱メンバー：林瑠奈、中西アルノ、海邉朱莉らの台頭
今後の歌唱面で中心となるのは、先述の林瑠奈、中西アルノ、海邉朱莉の3人であると考えられます。この3名は40thシングル『ビリヤニ』収録曲「Spark a revolution!」でもユニットとして注目を集めました。中でも中西アルノは、高い音域でもブレないピッチ、複雑なメロディラインを歌いこなす器用さに加え、実力派シンガーが集う生バンドのライブにも参加し、アイドルの枠を超えた現場で確かな結果を残しています。これは、彼女の歌唱力が「乃木坂46の外側」からも信頼されている証拠と言えるでしょう。
乃木坂46『さざ波は戻らない』のパフォーマンス
中西アルノの汎用性と次世代の乃木坂サウンド
今後、久保史緒里が担ってきた歌姫の役割の多くを中西アルノが引き継いでいく可能性は高いです。高い音域や複雑なハモリなど、楽曲の骨格を決定づける部分で彼女がどのような歌唱を見せるのか、その選択がこれからの乃木坂46のサウンドを大きく左右することになるでしょう。彼女の汎用性と安定感は、新生乃木坂46の音楽的基盤を築く上で不可欠な要素となります。
林瑠奈の情熱的な歌声とライブでの存在感
林瑠奈の魅力は、聴く者に真っ直ぐぶつかってくるような「熱」を放つ歌声にあります。ロックナンバーや感情の起伏が重要な楽曲で彼女がマイクを握った時、会場の空気が一変したように感じられるのは、フレーズごとにしっかりと抑揚をつけ、強い思いを乗せて歌い上げるスタイルによるものです。久保の歌声が「静かな強さ」で楽曲を支えていたとすれば、林は「前のめりな力強さ」でグループに勢いを与えるタイプと言えるでしょう。
あと一押しが欲しいフレーズや、曲のクライマックスで感情を解放させるべき場面など、「ここで一気に温度を上げたい」というパートを任せたくなるのが彼女の声です。2026年以降のライブにおいて、そうした見せ場が彼女にどれだけ託されるのかは、乃木坂46のステージングを考える上で重要な指標となっていくでしょう。
まとめと今後の展望
久保史緒里の卒業は、乃木坂46にとって歌唱面における大きな転換点となります。しかし、その後に続く林瑠奈や中西アルノといった次世代の才能が、グループの新たな歌の柱として台頭しつつあります。特に中西アルノの技術と汎用性、林瑠奈の情熱的な表現力は、今後の乃木坂46のサウンドに多様性と深みをもたらすことでしょう。彼女たちがどのように役割を分担し、個々の強みを融合させていくかによって、乃木坂46の音楽性はさらなる進化を遂げるに違いありません。乃木坂46の「次期歌姫」は一人に限定されることなく、それぞれの個性が輝く形でグループの歌唱力を支え、新たな時代を築いていくことでしょう。
