紀州のドン・ファン事件控訴審、須藤早貴被告の無罪判決が揺るがず即日結審

日本中が注目した「紀州のドン・ファン」野崎幸助氏(当時77)殺害事件で、元妻の須藤早貴被告(29)の控訴審初公判が12月8日、大阪高裁で開かれました。第一審の無罪判決を検察側が覆そうとしましたが、異例の即日結審。司法は「疑わしきは罰せず」の原則に従い、世間の関心を集めています。

第一審無罪判決の背景:「氷砂糖」の可能性

須藤被告が第一審で無罪とされたのは、決定的な証拠の不足が原因です。覚醒剤購入の事実があったものの、売人AとBの証言が食い違いました。売人Aは「本物の覚醒剤を渡した」と証言しましたが、売人Bは「Aに渡したのは全て砕いた氷砂糖だった」と供述。この矛盾により、須藤被告が入手したのが覚醒剤ではない可能性が否定できず、覚醒剤取締法違反及び殺人罪で無罪となりました。

野崎氏死亡時、須藤被告は自宅に滞在しており、事件当日に不自然な2階への昇降回数がヘルスケアアプリに記録されていましたが、これらは状況証拠に過ぎず、決定打とはなりませんでした。
紀州のドン・ファン野崎幸助氏(左)と元妻須藤早貴被告紀州のドン・ファン野崎幸助氏(左)と元妻須藤早貴被告

控訴審の展開と橋下徹氏の見解

12月8日の控訴審初公判では、検察側が第一審無罪判決の破棄を求めましたが、証人尋問や新証拠の提出は全て却下され、即日結審しました。判決は来年3月23日です。この即日結審を受け、12月8日放送の『ゴゴスマ』(TBS系)に出演した元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は、無罪判決を支持。「理想の刑事裁判の判決だ」と述べ、司法の原則を評価しました。

和歌山県警の捜査員と歩く須藤早貴被告のスタイルの良さ和歌山県警の捜査員と歩く須藤早貴被告のスタイルの良さ

刑事控訴審における「事後審制」

控訴審で証拠や証人の請求が却下されたのは、日本の刑事控訴審が「事後審制」を採用しているためです。森實法律事務所の森實健太弁護士によると、控訴審では原則として新たな裁判資料の提出は認められません。第一審の記録に基づき、その判決の妥当性を事後的に判断する仕組みだからです。「やむを得ない事由」(例:第一審判決後の示談成立)がある場合のみ例外的に証拠請求が認められます。今回の裁判所は原則に従い、検察側の請求を却下し、審理継続の必要なしと判断し即日結審に至りました。

「有罪率99.9%」と無罪判決の意義

日本では「起訴されれば有罪率99.9%」と言われるほど、無罪判決は極めて稀です。須藤被告への無罪判決は、この0.1%に含まれる珍しいケースであり、司法が世論や状況証拠に流されず、「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の根幹原則を貫いた結果です。これは、日本の刑事司法制度における厳格な証拠主義と、疑義があれば被告人に有利に働く原則を改めて示すものです。