石破茂前内閣の期間中、石破首相(当時)は中国の習近平国家主席との首脳会談を1回、岩屋毅外相(同)は王毅・中国外交部長との外相会談を3回、それぞれ行なっている。政権末期には東京電力福島第1原発の処理水問題を理由に中国が止めていた日本産水産物の輸入手続きも再開され、日中関係は改善の兆しがあった。それが高市早苗首相の発言によって一転して緊張が激化した。打開策をどう考えるか岩屋氏に聞いた。
「正直、今の展開は非常に残念に思っています」
――石破内閣が退陣したこの秋、習主席は北京にロシアと北朝鮮の首脳を招き戦勝80年の式典を開きました。しかし中国はそれを節目に日本との歴史問題は脇に置き、この先は対日関係を深める方向で動くのではないかと日本外務省は分析していたのではないですか。
岩屋毅(以下、同) 石破政権になって(2024年11月に)中国との首脳会談を(ペルーで)行ない、『戦略的互恵関係』にしっかり戻って建設的、安定的な関係を構築していこうと首脳同士が約束をしました。それに基づく形で私も王毅さんはじめ中国の要人ともお話をしたわけです。
日中間にあった懸案で、例えば東シナ海のあちこちにあったブイは全部撤去され、水産物の輸入再開手続きも順調に進んでおりました。その後には「(日本産の)肉もコメも入れてね」という話もし、日本人に対する査証(ビザ)免除も中国側は早期に実施しました。
その他の問題についても一緒に解決できることを1つずつ増やしていくという思いでやっておりましたので、正直、今の展開については非常に残念に思っています。
――高市早苗首相の発言のどこに問題があると思いますか。日中関係を軟着陸させる策はどのようなものでしょう。
私、(衆院)予算委員会のメンバーなので問題の答弁を目の前で聞いていました。正直「あれ、これはちょっと不十分というか適切でない答弁をしているな」とその瞬間思いました。
そもそも『存立危機事態』という概念が国民の皆さんもまだよく理解されてないところがあり、外国においてはなおさらだと思います。存立危機事態は、「日本が直接攻撃されてなくても友好関係にある国が攻撃され、それが原因でわが国の存立が根底から脅かされるような事態には集団的自衛権を限定的に使ってよろしい」という概念です。説明するだけでもこれだけ長い言葉がいるのですね。
これについては、平和安全法制を作った安倍政権以来の歴代内閣が一貫して“こうなったらこうする”という具体的な対応は言わないということを貫いてきていたわけです。
「それを踏み越えたんではないか」と誤解されかねない表現、答弁だったと思いますね。このことは後に高市総理も「従来の政府の⽴場を超えて答弁したように受け⽌められたことを反省点として捉える」と表明され、日本の基本的な方針が変わったわけでもないと繰り返し説明しています。しかし中国側は誤解をして、批判や攻撃を強めてしまっているということだと思いますね。
高市総理もその後、事実上の修正を図っているわけですからね。いやしくも日本の内閣総理大臣の答弁ですから外国から言われて取り消しや撤回をするのは政治的には非常に難しいと思います。「その後こういう説明もちゃんとしているじゃないか」ということをあらゆるレベルで丁寧に説明をしていく。そして互いに事態をエスカレートさせないことが大事だと思います。






