日本とロシア間の最大の懸案である日露平和条約締結交渉と、それに付随する北方領土帰属交渉は2019年、複数回の首脳会談や外相会談、実務者協議が行われたものの、期待された具体的進展はなかった。北方領土での日露共同経済活動など信頼醸成プロセスでは一定の前進がみられたが、“本丸”である北方領土帰属交渉では、ロシアの態度はむしろ硬化している。プーチン露大統領の言動を中心にして今年の日露交渉を振り返るとともに、来年の展望を占った。(モスクワ 小野田雄一)
■「両国世論の支持必要」
昨年11月のシンガポールでの首脳会談で、安倍晋三首相とプーチン氏は「平和条約締結後にソ連は日本に歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を引き渡す」と定めた1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させることで合意。日本国内では「4島回復の断念につながる」との批判が出た一方、「最低でも2島の返還が現実味を帯びた」との期待感も強まった。ロシア国内では、島の引き渡しに反対する抗議デモが起きたほか、世論調査でも回答者の大半が島の引き渡しに反対しているとの結果が出た。
今年の日露交渉は1月14日、河野太郎外相(当時)とラブロフ露外相によるモスクワでの外相会談で始まった。ラブロフ氏は会談後の記者会見で「『南クリール諸島(北方領土のロシア側呼称)は第二次大戦の結果としてロシア領になった』ということを日本が認めない限り、交渉は前進させられない」とするロシアの立場を強調した。これを日本が認めた場合、「ロシアによる不法占拠」という日本の主張の根拠が失われることになり、日本にとっては容認しがたい主張だ。
1月22日には安倍首相とプーチン氏による首脳会談もモスクワで行われた。プーチン氏は会談後の会見で「両国が相互に受け入れ可能な決定を得るためには綿密な作業が控えている。決定は両国世論に支持されなければならない」と発言。国内世論の反発を考慮し、交渉の長期化を示唆した発言として受け止められた。
■「交渉はテンポ失った」
プーチン氏は3月、露財界人との会合で「平和条約締結には、日米安全保障条約からの日本の離脱が必要だ」「日露交渉はテンポを失った」との認識を示した。発言の背景には、この時期、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を米国がロシアに通告し、「条約失効後に米国が日本にミサイルを配備するのではないか」との見方が広がっていたことがある。