金融庁がかんぽ生命保険と日本郵便に出した行政処分は、わずか3カ月間の一部業務停止という“甘い”ものだった。持ち株会社である日本郵政株の売却益は東日本大震災の復興財源に充てられる。厳しい処分で郵政の株価が落ち込めば、財源が確保できず復興計画に遅れが生じかねない。甘い処分の背景には、そんな懸念を抱える政府への配慮も透けてみえる。
「3カ月間は郵政グループの今後の調査と適切な体制整備に向けて必要な期間と判断した」。27日、記者会見した金融庁の担当者は、3カ月の処分期間の短さを指摘する報道陣の相次ぐ質問にこう説明した。「他の民間保険会社などと比べて対応が違うことはない」と妥当性を強調した。
だが、この処分には他の金融機関などからも厳しい指摘が相次いでいる。
「公的信頼性を持つ郵政傘下企業が高齢者をターゲットに不正販売をしたのは、スルガ銀行の不正融資よりも悪質なのに、処分はスルガ銀より軽い」。ある保険会社の幹部は、かんぽ生命同様、過度な営業ノルマを課し、投資用不動産に絡む不正融資で6カ月間の一部業務停止処分を受けたスルガ銀を引き合いに出し、疑問を投げかけた。
政府は郵政株の持ち分を現在の57%から郵政民営化法が定める下限の「3分の1超」まで売り、1・2兆円程度を確保して東日本大震災の復興財源に充てる計画だった。だが、6月にかんぽ生命の不正販売が発覚して株価は急落し、今秋に予定していた郵政株の売却時期も延期された。目標の財源確保には1株1200円程度で売却しなければならないが、27日の終値は1037円と低迷。郵政株の売却時期は見通せない。
郵政傘下2社が主力商品を当面、販売できない状況では「郵政の株価が上がる材料がない」というのが投資家の見方だ。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは「新しいトップの主導で改善方向に向かうのであれば徐々に投資家の信頼も回復するだろうが、先行きは難しい」と分析する。(西村利也)