【北京=西見由章】米国と中国が「第1段階」の貿易協定に署名して米中貿易戦争が一時休戦となり、中国政府は対立の先鋭化が回避されたとして一定の評価をしているとみられる。習近平指導部が最も懸念するのは、米国との総合的な国力の差を縮める前に「新冷戦」構造が固まることだからだ。ただ、米国との国力を逆転させるまで経済構造改革に向けた対中圧力をかわし続けることができるかは極めて不透明だ。
今回の貿易協定については、中国側がより譲歩した「アンバランスなものだった」と指摘する声が国内から上がっている。
中国人民大の時殷弘(じ・いんこう)教授は「中短期的にみれば貿易戦争(の緊張)が緩和されたのは前向きな成果だ」としつつ、中国が米産品の輸入を急増させるのは「内需が明確に減少している国内経済の現状と一致しない」と指摘。また他国産品の購買力にも影響し、「中国外交に負担をもたらす」と分析した。
米側は「第2段階」の交渉で、米産品の輸入拡大を引き続き求めた上で迅速な構造改革を中国側に求めるとみられ、時教授は「交渉の困難さは第1段階を上回るだろう」と強調した。
貿易協議で一定の「手打ち」が実現したとはいえ、中国国内では米国が今後、台湾や香港、新疆ウイグル自治区の問題など通商分野以外でも対中圧力を強めるとの警戒感が根強い。
別の中国人研究者は、中国外交が「我慢」の時期に入っていると指摘する。今後は台湾問題に関して、トランプ政権や米議会の対中強硬派が「中国に揺さぶりをかけてくるだろう」と予測。ただ「中国が最も避けたいのは、米国との新冷戦の関係に引き込まれることだ」とし、米国の動向を慎重に注視する外交が続くとみる。
結局のところ、第1段階の貿易協定は「長期的な中米関係への影響はわずかな『小さな合意』にすぎない」(時教授)といえそうだ。むしろ両国間の対立構造は、徐々に深まり続けている。