【記者発】「身近」で「遠い」日本の税制 経済本部・蕎麦谷里志





消費税増税を前日に控え、街中では増税前の購入を促す広告が目立った=昨年9月30日、東京都豊島区(三尾郁恵撮影)

 消費税率が昨年10月に引き上げられてから3カ月以上がたった。多くの人が10%の税率や軽減税率制度にも慣れてきたころだろう。この1年間、税制を担当し現場の不安や混乱を目の当たりにして、改めて税が国民の暮らしに直結していることを痛感した。

 一方で、税は複雑で国民にとっては分かりづらいという側面も持つ。制度自体の複雑さもさることながら、一部の政治家が非公開の場で決めていくという税制の決定過程も一因だろう。

 税制は毎年、世の中の変化に合わせて見直しが行われる。決めるのは自民党と公明党の税制調査会だ。8月末に各省庁が税制をこう変えるべきだという要望をまとめ、財務省と総務省が論点整理した後、11月中旬から両党の税調が連日のように会合を開き、12月中旬に見直し内容を盛り込んだ文書「税制改正大綱」としてまとめるのが通例だ。

 問題は一連の会合が全て非公開で行われる点だ。会合の終了後に税調会長や事務局長らが短時間のブリーフィングを行うことが多いが、それ以上の内容は出席した国会議員から聞き出すしかない。議事録なども公表されず、さまざまな税制がどういった議論を経て決まったのか、事後検証もできない仕組みだ。

 政府による説明もほとんどない。例えば、昨年の税制改正で大きな制度変更が決まった少額投資非課税制度(NISA)。いわゆる年金2千万円問題で、老後の資産形成に国民の関心が高まっているにもかかわらず、所管する金融庁は会見もせず「問い合わせには答える」と後ろ向きだ。議論の過程が見えず、説明も不十分ならば国民の理解が進まないのも当然だ。本来は身近なはずの税が、日本では遠い存在になってはいないか。

 「増税=悪」といった短絡的なイメージも、税への理解が進んでいないことの表れだろう。税は国や地方自治体の行政サービスの財源で、納めた分はサービスの充実という形で返ってくる。そのため、海外では増税への反発も日本ほど強くないと聞く。しかも、税には高所得者ほど多く納める「所得再分配機能」がある。基本的には低所得者ほど少ない支出で多くのサービスが受けられる仕組みで、増税は必ずしも悪い話ばかりではないのだ。

 平成13年入社。大津支局、さいたま総局、東京本社社会部などを経て、29年5月から経済本部で、現在は財務省・金融庁を担当。



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