【主張】デジタル通貨 環境変化の備えを万全に


 日銀が、欧州中央銀行(ECB)や英国などの中央銀行と連携し、デジタル通貨の研究に動き始めた。中央銀行がデジタル通貨を発行する場合の課題などについて知見を共有し、年内をめどに報告書をまとめる。

 日銀は現時点で、現金通貨とは別に「デジタル円」のような通貨の発行を計画しているわけではない。

 だが、中国がデジタル人民元の発行準備を進めるなど、中央銀行と通貨のありようが、デジタル技術の急速な進展で様変わりする可能性が指摘されている。

 将来の通貨覇権とも関わる重要なテーマであり、日銀が備えに万全を尽くすべきは当然だ。導入の是非を適切に判断できるよう、各中銀と議論を深めてほしい。

 メンバーは6つの中銀だ。日銀などのほか、スイス、スウェーデン、カナダの中銀も入る。実際に発行するかどうかは各国が独自に判断する。デジタル通貨発行に動く中国や、逆に導入に慎重な米国はこの枠組みに入っていない。

 世界の中銀でデジタル通貨の議論が活発化したのは、昨年、米フェイスブックが発行計画を打ち出した「リブラ」がきっかけだ。

 民間のデジタル通貨が普及して現金通貨の利用が減れば、金融政策の効果が弱まりかねない。マネーロンダリング(資金洗浄)などに悪用される恐れもある。こうした懸念に対応するため、国の信用に裏打ちされた、中銀のデジタル通貨の是非が検討されている。

 もちろん、解決すべき課題も多い。いつだれがデジタル通貨を保有したかといった個人情報の保護や、サイバー攻撃への対応などである。金利を付けるかどうかなど具体的な手法も研究が必要だ。

 日銀はすでにECBと共同研究を進めているが、より多くの中銀との知見共有には意義がある。

 警戒すべきは、ほぼ準備を整えているデジタル人民元だ。当面は国内での普及を想定しているようだが、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」のもとで世界中で利用されれば、国際通貨として浸透する可能性がある。そうなれば、通貨取引のデータを中国に握られかねない。

 ECBのラガルド総裁はデジタル通貨対応の検討を急ぐ考えである。日銀も発行の必要性が生じれば、すかさず対応しなければなるまい。そのためにも通貨秩序の変化を注視していきたい。



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