今年の自動車大手労働組合の春闘要求では、基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)だけにこだわらず、定期昇給なども合わせた「総額」を示す流れがさらに鮮明になった。昨年はトヨタ自動車とマツダのみだったが今回はSUBARU(スバル)も加わり、大手の上げ幅に中小が左右されている悪弊の脱却を目指す形。規模が大きい自動車産業は事実上、賃金相場の指標になっていただけに、春闘動向全体に影響を与える可能性もある。(今村義丈)
「昨年の取り組みは有効だった。今年はさらに加速させる」。12日、東京都内で記者会見した自動車総連の高倉明会長は強調した。自動車総連は昨年、大手と中小の格差是正のためとしてベアの統一要求水準を示さない方針に踏み切った。「総連や大手が額を示せば中小もそこに収斂されてしまい、差が縮まらない」(高倉氏)との理由だ。
ベア分を非公開にしたトヨタ、マツダ、スバルの各労組は今回、経験年数に応じた定期昇給分なども含めた「総額」としてそれぞれ1万100円、9千円、9千円を要求。日産自動車や三菱自動車は、ベア分3千円を示しつつ総額も「9千円」と明記した。
定期昇給は大手では一般的だが中小では制度化されていない社も存在し、ベア偏重では格差が縮まらない理由の一つでもあった。
さらに自動車総連が今年新たに共闘軸に打ち出したのが「企業内最低賃金の底上げ」。関係者は「組合員だけでなく非正規雇用、さらには業界全体、他産業にも波及する」と意義を強調する。自動車メーカー単組では今回の要求で平均2500円の最低賃金アップを盛り込んでおり、こちらも中小への波及を期待する。
ただ、新型肺炎の拡大が生産に与える影響や米中貿易摩擦、次世代技術での産業の枠を超えた戦いなど、競争環境は厳しい。高倉氏は賞与への影響は容認しつつ「賃金は別。苦しい環境だからこそ先を見据え、着実に上げるべきものだ」と述べ、例年以上に賃上げにこだわる覚悟を示した。