ゲーム各社が培った「続けて遊びたくなる」ノウハウを、他産業が取り入れる動きが活発化している。「人も楽しませる」というゲーム独自の視点が、技術の実用化や高齢化などの社会課題の解決に新たな示唆を与えると期待されているからだ。ゲームのノウハウを他の産業に応用することは「ゲーミフィケーション」と呼ばれ、医療や介護の現場でも注目されている。
スクウェア・エニックスは3月末まで、精密機器大手のオムロンと共同で人工知能(AI)を活用し、やる気を引き出すという一風変わった実証実験を実施している。実験では、オムロンが開発した卓球ロボットにスクエニのAIを搭載。AIがわざと厳しく攻撃したり、打ち返しやすい球を返したりする。ロボットが人を観察しながら“アメとムチ”を使い分けることで、やる気を引き出して練習の効果を高めるという。
AI技術の発展でロボットなど、個々の機械は飛躍的に精密に制御できるようになった。ロボットが人と一緒に作業するなどの社会実装を目指すためには、人を理解して協調性を高めるAIの開発が求められる。
スクエニの三宅陽一郎リードAIリサーチャーは「AIは人と共存する現実が苦手。一方、ゲーム産業は一人のユーザーを深く理解し、楽しませることを続けてきた」と話す。
スクエニは自動の接客サービスなどで実用化を目指す。将来的にはスマートシティーなど、多数のAIが複合的に運用される仕組みで、全体を最適化する監督の役割を果たすAIの開発につなげる。
こうした仕組みは、ゲームですでに取り入れられている。スクエニの人気ロールプレイングゲーム(RPG)「ファイナルファンタジー15」では、仲間キャラクターがプレイヤーが倒そうとしている敵をあえて倒さないなど、AIでゲームの爽快感や難易度を調整している。