平成の日本の治安を根底から脅かした地下鉄サリン事件から25年。事件では13人が死亡し、6千人近くが重軽症を負った。事件で犠牲となった霞ケ関駅助役、高橋一正さんの妻、高橋シズヱさんに、犯罪を引き起こしたオウム真理教への思いや、被害者を取り巻く今の環境などについて、話を聞いた。
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事件から25年。犯罪被害者や遺族を取り巻く環境が大きく変わった。被害者側の裁判参加や裁判員裁判が制度化され、経験した。
肉親の理不尽な犠牲は受け入れがたいが、被告人の内面に迫り、人間性に触れ考えを知ることがある程度、納得につながる。ただ裁判員裁判ではあらかじめ証言内容が決められていて心情が全く聞かれない。
豊田亨元死刑囚には刑の確定前に「それでも生きていく」(「地下鉄サリン事件被害者の会」著)を差し入れ、読後に手紙を受け取っていたが確定後、人間性が変わったのかどうか、死をどうとらえているのか、知りたかった。
公判では感情をさらさず反省の有無も分からなかった。両親に聞くと本人は真面目な一方で明るい性格だったとのことだった。「被害者遺族がいる限り、泣いたりしない」と自らを律していたのだということも知り、姿勢に好感を持った。
オウム真理教は名を変え、後継団体は若い人を中心に信者獲得の手口が巧妙化。危険性は増していると思う。家族の会話が少なく、若い人が孤立し、心が満たされない社会状況は当時と重なる。再来を許さないよう、取り締まり強化や再発防止策を検討すべきだ。学校などでも啓発活動を進めてほしい。
亡き主人の同僚がお墓参りに来てくれ、心の支えになる。時間が経過したという意味での風化は小さなこと。発生から長い時が経ったということを「風化」という言葉でくくるのは失礼なことだと思う。(聞き手 松崎翼)