【パリ=三井美奈】新型コロナウイルスが広がる欧州で、各国首脳はそれぞれ国民向け演説を行い、外出制限への協力を訴えている。第二次世界大戦以降、例のない強硬措置の実施にあたり、指導者が劇的な表現で国民に語りかけ、結束を促す狙いがある。
フランスのマクロン大統領は25日、東部ミュルーズで仏軍が設営した野営病院をマスク姿で視察した。現場から国民向けに演説し、ウイルスとの闘いを「戦争」にたとえて、治療にあたる医師や看護師を「最前線にいる人たち」とたたえた。「国民はこの戦争で一つにならねばならない」とも述べた。
マクロン氏は今月16日、テレビ演説で外出禁止令の実施を発表した。以来、「これは戦争だ」と訴え、国民ぐるみで危機を克服するよう訴えてきた。テレビ調査会社によると、16日の演説の視聴者は、延べ3500万人以上。仏人口の半数以上にのぼった。
ドイツのメルケル首相は18日、国民向け演説で、感染拡大は「第二次大戦以来、わが国にとって最大の試練」と位置付けた。
メルケル氏は旧東独で育った経験から、「移動の自由」の尊さは身に染みて知っていると強調。移動制限や商店閉鎖という措置は「民主主義体制で安易に決められるものではない」としながら、現在は生命を救うために必要だと述べた。メルケル氏が特定のテーマで、国民向けのテレビ演説をするのは、極めて異例なことだ。
メルケル氏は自ら感染検査を受け、報道官は23日に陰性だったと発表した。
感染拡大が最も深刻なイタリアでは、マッタレッラ大統領が27日、国民向け演説で「われわれは歴史の悲しい1ページを経験している。今日もたくさんの死者が出た」と述べた。感染封じ込めの見通しがつかない中、「国民はいくつも困難を経験した。きっと今回も一緒に切り抜けることができる」と鼓舞した。
英国のジョンソン首相は23日、「今夜から国民に『家にいなさい』という指示を出さねばならない」と移動制限の実施を宣言した。27日にはツイッターの動画で、検査で自らが陽性だったことを国民に告げ、「みんなでウイルスをたたきのめそう。家にいて、生命を救ってください」と訴えた。
世論調査によると、外出禁止や商店閉鎖など政府の感染対策に対する支持率は、フランスで95%、イタリアでは94%にのぼった。