【パリの窓】コロナの春



新型コロナ感染拡大に伴う外出禁止措置を受け、街で警戒にあたる警察官たち=4月2日、パリ・トロカデロ広場(AP)

 東京にいる夫から「いよいよ外出自粛だ」と緊迫した声で電話があった。飲食店や本屋は開いていると聞き、つい「ユルいじゃん!」と叫んでしまった。

 フランスは外出禁止令から2週間たった。営業が認められたパン屋や酒屋も、どんどん閉店する。客足が減ったうえ、従業員の確保が難しくなったから。知人から「義兄が死んだ。2日間で容体が急変したの。信じられない…」とメールが届いた。感染の恐怖感は、身近に迫ってきた。

 毎日のささやかな楽しみは、警察の検問におびえつつ、食品の買い出しに行くこと。パスタや米は品薄なのに、旬の白アスパラやイチゴは大安売り。レストラン閉鎖で需要が減ったためらしい。魚屋のマダムは「ブルターニュの海から魚が届く限り、店をやるよ」と力強く笑う。応援したくて、またカニ肉を買ってしまった。最近は、漁に出る船も減ったと聞く。

 外出禁止の直前、パリから地方に大勢脱出し、人口は17%減ったとか。閑散とする街を歩き、本屋で立ち読みしたり、花を買ったりという日々の気晴らしが、どんなに大切だったかを実感する。

 雑踏が消えたシャンゼリゼ通りで、野鳥が鳴いていた。排ガスのない空は澄み渡り、マロニエは新芽を吹く。人間の不安をよそに、自然は春の喜びに沸いている。(三井美奈)



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