【中東ウオッチ】「山下さん、ガンバッテ」あのラシュワンさんに聞いたフェア精神の神髄





取材に応じるラシュワン氏=3月31日(佐藤貴生撮影)

 エジプト出身の有名人といえば、若い人なら大相撲の元幕内、大砂嵐の名を挙げるかもしれない。しかし、40代以上の世代ならムハンマド・ラシュワンさん(64)を思い浮かべる向きも多いのではないか。1984年ロサンゼルス五輪の柔道男子無差別級決勝で、ラシュワンさんは山下泰裕さんが負傷した右足を本格的に攻めることなく敗れ、そのフェアプレーに日本中が感動した。山下さんとの戦いや柔道への思いについてラシュワンさんに聞いた。(エジプト北部アレクサンドリア 佐藤貴生)

 首都カイロから車で約2時間半。ラシュワンさんは、故郷のアレクサンドリアで長兄が経営する食料品店の店内で笑顔をたたえて迎えてくれた。巨体を支える小さな椅子がきしんでいるようだった。

 インタビューのテーマは「新型コロナウイルスの感染拡大に世界はどう対処すべきか」(4月24日付朝刊特集面に掲載)だった。ラシュワンさんは「自分は医療の専門家ではないから、日本やエジプトのみなさんに言えることは、緊急時以外は外出を避け、手を洗い、消毒することに尽きる」などと話した。アラビア語と英語、若干の日本語での質疑を通じ、スポーツマンらしい実直さが伝わってきた。

 記者(佐藤)はロス五輪のとき、高校生だった。負傷しながら金メダルを獲得し、涙をこらえるように表情をぐっと引き締めた山下さんの表情が忘れられない。ラシュワンさんに最も聞きたかったことの一つはやはり、「山下さんの右足を攻めたのか」だった。

 決勝の様子を撮影した動画では、山下さんが別の試合で痛めた右足を試合開始直後に攻めに行ったように見える。その後、左足に仕掛けたラシュワンさんの体勢が乱れた隙を突いて山下さんが押さえ込み、勝負が決まった。

 ラシュワンさんは「払い腰」「右と左」と日本語を交え、何度も繰り返し聞かれてきたはずの問いに、以下のように答えた。

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