【モスクワ=小野田雄一】ロシアは12日、新型コロナウイルスをめぐり、プーチン大統領の主導で3月末から全国で実施していた飲食店や企業を対象とする活動制限の段階的な解除に入った。感染者がなお急ペースで増えている中でプーチン氏が決断した。プーチン氏には、目立った効果が出ていない活動制限をこれ以上継続しても、経済低迷の深刻化や自身の権威失墜を招くだけだとの危惧があったとみられるが、決定には懸念も強まっている。
プーチン氏は11日、政府の新型コロナ対策会議で全国を対象とした活動制限の解除を表明。「活動制限により、数千人の国民の命が救われた」と強調した。今後の感染に対し、十分な検査・治療態勢が構築されたことも解除の理由とした。
一方、各連邦構成体(自治体)が個別に実施している外出制限措置などについては、地域の感染状況に応じて各自治体が解除時期を判断すべきだとした。国内感染者の半数を占めるモスクワ市は、罰則を伴う外出制限を5月末まで続ける。
ただし、ロシアの感染状況は悪化している。制限が導入された3月末時点の感染者は2千人未満だったが、その後に急増。最近は新たな感染者が連日1万人を超えている。米ジョンズ・ホプキンズ大の12日の集計では、感染者は23万人超となり、米国に次いで世界2番目になった。
政権側は「感染者数の増加は検査数の増加によるもので、実際に感染が拡大しているわけではない」と説明するが、国内には不信感が根強い。
露経済紙「ベドモスチ」は12日付の社説で、ロシアでは現在も感染が拡大しているとし、「プーチン氏が何を根拠に活動制限を解除したのかは不明だ」と疑問を呈した。
プーチン氏が制限解除を強行した背景には、経済低迷への危惧があるとみられる。ロシアは現在、新型コロナに加え、原油価格の急落という“二重苦”に直面。露連邦中央銀行は7日、今年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス4~6%に達するとの観測を発表した。活動制限が長期化すれば、経済や国民生活のさらなる悪化は避けられない状況だった。
プーチン氏には、これまで2回にわたり延長してきた活動制限期間をさらに延長すれば、低下傾向にある自身の支持率がさらに悪化するとの懸念もあったとみられる。