【ニューヨーク=上塚真由】欧米の先進国が新型コロナウイルスの感染ピークを迎えた中、新興国が新たな感染の震源地となる懸念が高まっている。なかでも中南米の大国、ブラジルは先月から感染者が急増し死者が1万人を超えた。経済重視の同国のボルソナロ大統領は新型コロナを「ただの風邪」と呼び、規制派の州政府と対立するなど政治的混乱も表面化している。
ブラジル保健省は11日、国内の感染者が16万8331人、死者は1万1519人となったと発表した。世界で感染者は8番目、死者は6番目に多い。米国や欧州の先進国と異なる点は感染の増加ペースが鈍化しておらず、9日には前日から新たに約1万人の感染が確認されたと発表。南半球に位置するブラジルはこれから冬を迎え、インフルエンザの流行期と重なって医療機関がさらにひっ迫する懸念が高まる。
こうした中、ボルソナロ氏は11日、ジムと美容院を必要不可欠な事業と認定し、営業継続を認めると宣言。「人命の問題と職は同列に扱われるべきだ。経済活動がなければ生きていけず、医師も医薬品もない」と述べ、今後も規制を緩和していく方針を示した。
ブラジルでは、州政府が独自に経済規制などの感染防止策を講じているが、ボルソナロ氏は、経済に多大な損害を与えているとして規制に反発し続けている。
同氏は4月半ばに、新型コロナ対策をめぐり対立していたマンデッタ保健相を更迭。最も被害が深刻なサンパウロ州では3月24日から経済規制を実施し、5月11日に段階的に解除される予定だったが、感染に歯止めがかからず、州知事は5月末までの延長を決めた。サンパウロ市などでは「ブラジルを殺す犯罪行為だ」と州政府の姿勢を批判するボルソナロ氏に呼応する支持者によるデモ活動が広がっている。
有力な英医学誌ランセットは9日、論説を掲載し、サンパウロやリオデジャネイロなど大都市がホットスポット(一大感染地)となっているが、「集中治療室や換気装置が不十分な内陸部の小さな都市に感染が広がっている兆候がある」と警戒。「ブラジルの新型ウイルス封じ込めの最大の脅威はボルソナロ氏だ」と、新型コロナの脅威を軽視する姿勢を痛烈に非難した。