今回のコロナ禍は、日本が抱える厳しい現実を図らずも浮き彫りにした。感染症対策の脆弱(ぜいじゃく)性や政治の意思決定の遅さ、行政手続きの硬直性など数え上げればきりがないが、なかでも海外に比べて深刻なのがデジタル化の遅れだ。マスクの販売管理や中小・小規模事業者向けの特別融資、あるいは国民すべてに一律10万円を配る特別定額給付金など、さまざまな面で混乱が起きた元凶は、デジタルによって社会システムを効率化できていない日本の現状にある。
「マイナンバー」で行列
外出自粛が求められる中でITを使ったテレワーク(在宅勤務)が急速に広がり、その利便性が認識された。岩盤規制の象徴だったオンライン診療も一部で解禁された。新型コロナウイルスとの戦いはこれからも続き、新たなウイルスの脅威にも備える必要がある。今こそ官民を挙げてデジタル基盤を本気で整備しなければならない。
5月の連休が明けた東京都内の区役所には、長蛇の列ができていた。定額給付金をいち早く受け取るため、オンライン申請に必要なマイナンバーカードの申し込みや暗証番号の再設定に訪れた人たちだ。一部で行列が数時間待ちにも達し、「3密」を避けるために後日、改めて来庁するように声をからす職員の姿がみられた。
定額給付金は、市区町村から世帯主あてに郵送されてくる申請書に銀行口座などを記入して送り返せば、その口座に後で世帯人数分が入金される。オンラインでも申請できるが、役所の混雑は今も続いており、「定額給付金の受け取りを急がない人は、どうか郵便で申し込んでほしい」と呼びかける首長たちの表情は苦しげだ。
だが、都市部などでは住民に郵送するための封筒の需要が急増し、必要な数の確保が難しくなっている。申請書が届くのは6月以降になる見通しで、実際に振り込まれるのは夏場にずれ込む可能性がある。そうした遅れを心配した人たちがオンラインで申請できるマイナンバーの申し込みに駆け込んでいる。